「わあ、あなたずいぶん『徳ポイント』貯まってますねえ。どうされます?」
「とくポイント?」
「徳の高い行いをした時に貯まるポイントのことですよ。徳のポイントだから『徳ポイント』。」
「はあ…。いやでも僕、そんな徳の高い行いなんてしたことないと思うんですけど。」
「いやそこがミソでね。本人には殆ど自覚がないもんなんですよ。」
「はあ。」
「それに別に徳が高い行いっていうのは、大それたことに限らないんですよ。たとえば自分より疲れてそうだなって人に電車で席を譲るのだって、立派に徳ポイントになります。」
「へえ。」
「意外だったみたいですね。でもあなたも思いませんでしたか?人に思いがけず親切にしてもらったりしたら『この人に徳ポイント100ポイントっ!』って。」
「え、いや、そういうポイントがあるって知らなかったもので…。でも、『なんていい人なんだろう、この人に幸あれ』とは思いました。あっ。」
「そう、それなんですよ。その瞬間、こちらで管理している徳ポイントカードにポイントが貯まるって仕組みです。」
「へええ。」
「もともとね、そちらの世界では理不尽なことが多いじゃないですか。良い人が必ずしも報われるわけじゃないし、良いことをしても感謝さえされないこともある。」
「そうですね。」
「でもそれじゃあんまりじゃないか。せめてこちらでは全てちゃんと見ていて、徳の高い行いについては逐一ポイントとして本人に代わって貯めておいてあげよう、とまあそういうことで始まった制度なんです。」
「なんだか優しいですね。」
「で、どうされます?」
「どう、と言いますと?」
「何と交換されます?」
「あ、そうか。ほんとに普通のポイント制と同じなんですね。」
「そうですよ。」
「何と交換できるんですか?」
「それも実はあなた次第なんですけどね。たとえば、何か心残りなことってあります?」
「えっ。」
「いや、そりゃもちろんあると思うんですよ、色々とね。ただ、あなたはこちら側に来てしまったわけですから、基本的にはもう向こうの世界に対して働きかけられないわけです。」
「ええ…、それは心得ています。」
「でもね、なんせあなたには徳ポイントが貯まっていますから、もしどうしてもこれだけはと思うことがあれば、ポイント次第で可能な場合があるんです。」
「本当にっ?」
「ええ。ちなみに最も多いリクエストは『家族や友人の幸せ』ですね。」
「はいっ!」
「いや、ただなんせポイント制なんで、実際そこまでざっくりとはいかないんですよ。ちょっとお手間かけちゃうんですけど、一個一個事例を選んでもらわなくちゃいけなくて。」
「はあ…。」
「つまりですね。例えばあなた、そちらの世界にいた時にご自身でも体験されたことありませんでした?ものすごいピンチになった時になぜか切り抜けられた事とか、すごく悩んでいた時にまるで導きのような出来事があったり。」
「ええ、何度もありました。」
「それ、実は誰かの徳ポイントだったんですよ。」
「ええっ!?」
「あなたの親しい人たちがこちらに来て同じようにポイントを交換した時に、あなたのために使うことを選んだんです。まあそちらの世界においては、それらの現象はただ単に『奇跡』として理解されてたかと思いますが。」
「そ、そうだったんですか…!?」
「ええ。ちなみに徳ポイントを使ってもらった本人にもその半分のポイントが溜まるんですけどね。ポイントを使ってもらうぐらい日頃の行いが良かったで賞ということで。」
「…。」
「オホンっ!ともかくですね、こちらに全ての人の人生を記した閻魔帳がありますから、あなたが徳ポイントを使いたいと思う人の名前を挙げてくれれば、その人の人生をざっと見渡すことができます。そしてその中で起こるどのピンチに対してポイントを使いたいか言ってもらえれば、こちらで出来る限りのことをしたいと思います。どうですか?」
「ぜひお願いしますっ!それではまず…」
…かくして無事に徳ポイントの交換を終えた僕は、次の体重検査場へと向かうことになった(何をするのかは見当もつかないが、まあまた機会があれば誰かに聞いてみることにしよう)。
それにしても『徳ポイント』。そんな制度があったなんて驚きだった。僕が知らない間に貯まっていたポイントで、残してきた皆のためにまだできることがあったなんて本当にありがたい。そして今までは知らなかったけれど、そうやって先に行った親しい人たちが僕の人生をこんな風に支えてくれていたんだと知って胸が熱くなった。この先、彼らとこちらの世界でも再会できると良いのだが。
さて、まずは次の体重検査場に向かうとするか!
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少しアイデアが貯まったので、
以前に書いたショートショートの前編を書いてみました。実際のところどうなっているかはもちろんわからないのですが、徳ポイントについては前々からそういう制度があったらいいのになと思っていまして、また徳が高いなと思う人については「あの人相当貯まっているだろうな」と思ったりしています。