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2023年8月5日土曜日

ミュージカル創作ワークショップ 有料アーカイブ動画 〜AABA形式、CEソング【分析編】〜


ミュージカルライターズジャパンで開催してきたミュージカル創作ワークショップの有料アーカイブ動画が新たに公開されました!


初回であるAABA形式の回と、6月に終えたばかりのCEソング【分析編】が加わって、これでここまで担当させて頂いたワークショップの動画が全て公開されたことになります。コツコツと積み重ねてきたワークショップが、これから興味を持って下さった方にいつでもアクセスして頂けるようになって嬉しいです。もちろんWSにご参加下さった方の復習用にも!


以下に改めてリンクをご紹介させて頂きます。

「ミュージカル創作ワークショップ2022 第1回」AABA形式 (アーカイブ動画) <全3回>

「ミュージカル創作ワークショップ 第2回(1)」CEソング【導入編】アーカイブ動画 <全2回>

「ミュージカル創作ワークショップ 第2回(2)」CEソング【分析編】アーカイブ動画 <全2回>


ミュージカルを作っている・作りたい方はもちろん、ミュージカルの作りに興味のある方にも、ぜひたくさん観ていただけたらと願っています

2023年7月15日土曜日

観劇記録:Camelot


 先日、リンカーンセンターのVivian Beaumont Theaterで開催中のアーサー王伝説を基にしたミュージカル、キャメロット(Camelot)のリバイバルを観劇してきました。何も知らずに観に行ったのですが(観劇はあえてあらすじ等何も調べずに観に行きたい派です)、観た後とても感じ入るところがありました。

 原作はMy Fair Ladyも手がけたFrederick Loewe(音楽)とAlan Jay Lerner(歌詞、脚本)による1960年の作品ですが、このプロダクションではA Few Good Menでも知られるAaron Sorkinが新たに脚本を書き下ろし、音楽はそのままで、作品が再構築されています。

 大きな変更としては魔法の要素が排除されていることで、理想の政治を実現しようとする過程で葛藤する人間同志のドラマに焦点が当てられています。

 特に、アーサーがエクスカリバーを引き抜くことができたのは「選ばれし者だったからではなく、それまでに何千人もの人がトライしたことで抜けやすくなっていたからだ」とグウィネビアが説くシーンがあり、そのセリフ自体は軽妙な会話のやり取りから生まれ客席から笑いも起こるのですが、作品の最後のメッセージともつながっていて新鮮でした。

 いくつか大手メディアの劇評も読んでみたところ、アーサー、グウィネビア、ランスロットの三角関係がうまく創出できていない、という評もありましたが、個人的には、「思いがけず王になった責任感の強い青年」、「政略結婚で妻となった王女」、「最も信頼される騎士」、という3人の中で、愛情にためらいがあったり、自分の気持ちと立場上あるべき振る舞いの中で揺れ動いていたり、不安が故に裏切ってしまったりと、誰かを悪者にすることなく関係性が崩れてしまう瞬間が描かれていて納得感がありました。

 また、こちらも劇評の中でも指摘されていたところですが、現代的な価値観が積極的に反映された脚本と、物語の中で起こる出来事と歌詞の中で語られる内容がどうしてもそぐわない部分もあり、やはりリバイバルというのは難しいと感じましたが、新しい脚本が目指した方向性には一貫性があり、共感できる部分が大きかったです。

 4月13日に開幕したこのプロダクションも、来週末千秋楽が予定されています。どの作品を見ても思うことですが、観た側が、これが一回限りの公演だと言われても納得してしまうような熱意と精度で、毎公演キャストとオーケストラが演奏してくれていることに頭が下がり、ありがたいことだと思います。千秋楽までどうぞ引き続き無事に盛況にと願います。

2023年7月9日日曜日

「ミュージカル創作ワークショップ 第2回(2)」CEソング【導入編】アーカイブ動画

今日のお知らせはミュージカル創作ワークショップについてです!

「ミュージカル創作ワークショップ 第2回(2)」CEソング【導入編】アーカイブ動画 <全2回> from 特定非営利活動法人ミュージカルライターズジャパン on Vimeo.

昨年からミュージカルライターズジャパン(MWJ)で講師を務めさせてもらっている創作ワークショップの第2回をただいま好評開催中です。今回はCEソング(キャラクター・エスタブリッシュメント・ソング=一般に“I am song”や“I want song”と呼ばれている曲種)を取り上げ、導入編、分析編、実践編の三部構成でじっくりと進めていて、分析編までが無事に終了しました。

現在、導入編の二日間のアーカイブ動画が有料レンタルとして公開されています。ミュージカルの作り手の皆さんにはもちろん、ミュージカルを観ることが好きな皆さんにも次の観劇をより楽しんで頂けるような、ミュージカルの作りを深掘りする内容になっていますので、ご興味持って頂けたらぜひご覧頂けると嬉しいです!


2023年2月11日土曜日

観劇記録:The Collaboration



先週になりますが観劇に行ってきました!普段は機会があればできるだけミュージカルをと思うのですが、前々から興味があったこの作品、久々にストレートプレイを堪能してきました。(開場直後に着いたため、写真ではまだ席が埋まっていませんが盛況でした!)

アンディ・ウォーホルとジャン=ミシェル・バスキアがコラボレートしていたら、という設定のこの作品-二人が考えをぶつけ合いながら友情を深めて行く中で、アート、そしてアーティストとは何か考えさせられ、また成功するほどにブランドとして消費される悲しい側面も浮き彫りになります。

それぞれにクールなイメージのあった二人の巨匠がどうやってコラボレートするのだろうと思って観劇に臨みましたが、ウォーホルは終始飄々としていて、バスキアは無邪気で感情が豊かな役作りで、二人の関係性が自然に積み上がって行くことが体感できるお芝居でした。(登場人物はメインの二人に加え、バスキアの彼女と美術商の四人です。)

カーテンコールで明かりがついた時、バスキア役の役者さんが最後の圧巻のシーンからの感情がまだ続いていて、溢れる涙を拭っていたのが印象的でした。役者さんの心が動いているからこそ観客が感情移入できるのだなと改めて思いました。

ウィットに富みつつ様々な社会問題にも触れる充実した脚本を、上手い役者さんたちが演じ、観客も良く呼応して、とても素敵な観劇体験でした。


 

2022年12月28日水曜日

音楽朗読劇「オン・ザ・ザッテレ」千秋楽!

音楽朗読劇「オン・ザ・ザッテレ」、おかげさまで昨日、無事に千穐楽を迎えました!公開されたばかりの舞台写真をシェアさせて頂きます。

今回は帰国叶わず本当に残念でしたが、遠隔ながら、素晴らしいコラボレーター、キャスト、スタッフの皆さまとこの作品を作り上げることが出来て、感謝の気持ちで胸が一杯です。

ご来場・配信にてご覧下さった皆さま、応援して下さった皆さま、本当にありがとうございました!!取り急ぎご報告とお礼まで✨

26日キャスト
#渡辺哲
#寺崎裕香
#池田有希子


27日キャスト
#串田和美
#内田靖子
#池田有希子


28日キャスト
#山崎一
#長尾純子
#秋本奈緒美

2022年12月21日水曜日

音楽朗読劇、初日まであと五日!

音楽朗読劇「オン・ザ・ザッテレ」、あっという間に初日が迫ってきました!

ご案内がギリギリになってしまいましたが、配信チケットも含め、改めて公演のご案内をさせてください。


音楽朗読劇『オン・ザ・ザッテレ』

On the Zattere by William Trevor

ウィリアム・トレヴァー著

「ザッテレ河岸で」(訳:栩木伸明/出版:国書刊行会)


12月26日(月)〜12月28日(水) 全6公演

新宿文化センター 小ホール

◆ウェブサイト

https://onthezattere.com 

◆来場者チケット

https://confetti-web.com/detail.php?tid=69247& 

◆配信チケット

https://confetti-web.com/detail.php?tid=70011& 


着々とお稽古も進み、素晴らしく仕上がってきています。トリプルキャストとダブルキャストの組み合わせで、4組の異なるキャスティングでご覧頂く事のできるとても豪華な公演です!ぜひたくさんの方々に、多くの回を見て頂きたいです。(4組とも配信されます!)


音楽リハーサルの様子が公開されました✨

追記:コメント動画も公開されました!こちらもご覧いただけたら嬉しいです!



2022年11月9日水曜日

ミュージカルライターズジャパン ワークショップ第2回

 


お知らせ続きになってしまいますが、ミュージカルライターズジャパンのミュージカル創作ワークショップ第2回、参加者募集開始のお知らせです!

今回も引き続き私が講師を務めさせて頂いて、CEソング(キャラクター・エスタブリッシュメント・ソング)について詳しく取り上げます。

CEソングはアメリカンミュージカルのライティングの中でも大変重要なセクションの為、導入編、分析編、実践編に分け、時間をかけて取り組みます。

初回は導入編、レクチャー2回のワークショップです。アーカイブ視聴も可能ですので、作家の皆さんはもちろん、ミュージカルをより深く楽しみたいというファンの皆様にも広くご参加頂ければ幸いです​!

詳細・お申し込みはこちらから:https://mwj-ws2022-2.peatix.com/

2022年6月9日木曜日

ミュージカルライターズジャパン ワークショップ

 


こちらも活動のご報告とお知らせなのですが、実は今年1月より、特定非営利活動法人ミュージカルライターズジャパン(MWJ)という、日本でミュージカル創作に携わるすべての人のための活動団体で理事を務めさせて頂いています。

その2022年度ミュージカル創作ワークショップが今月ついに始まるのですが、今回は私が講師を務めさせて頂いて、アメリカンミュージカルのソングライティングのフォーム(形式)について詳しく取り上げます!

締め切りギリギリのお知らせになってしまったのですが、受講者を明日(6/10)まで募集中です。また、聴講の募集も近日始まる予定ですので、ご興味ある方にぜひ応募して頂ければ嬉しいです!

現在ワークショップの準備でバタバタしてしまっているのですが、いずれ団体の活動についても詳しくお知らせさせて頂きたいと思っています。ご注目頂けたら幸いです。

2022年5月18日水曜日

オーディション


先日は、三日間にわたってソングライティング・ワークショップの為のオーディションの審査員を務めさせてもらいました。審査させてもらうのは初めてではないのですが、受験者の将来に関わる意思決定に参加することは何度経験しても身が引き締まる思いで、今回も全力で取り組ませてもらいました。

これから結果が通知されることになりますが、今回の結果に関わらず、受けてくれた人たちがどうか引き続き意欲的に曲を書き続けてくれますように、と願っています。

2019年1月31日木曜日

大寒波と1月の観劇記録


北米を襲っている大寒波の影響で、ニューヨークも昨日から厳しい寒さ(現在の外気は-9℃、体感温度は-17℃)が続いています。昨日の午前中はまだそうでもなかったので、そこそこの防寒対策(帽子なし、普通の靴)で出かけたところ、夕方からどんどん気温が下がってしまって帰りが大変でした…。写真は友達と食事をして外に出たところ、あまりにも吹雪いていたので思わず撮り合ったものです(吹雪は一瞬のことで、直後に雪はやみました)。今回の寒波はせめて雪が伴っていないのでまだ助かっています。


今月は2つ舞台を観に行くことができました。どちらも素晴らしかったのですが、それぞれに対照的な観劇体験だったので少し書いておきたいと思います。


・ANASTASIA The New Broadway Musical『アナスタシア』
1997年のアニメ映画『アナスタシア』を舞台化したミュージカルです(テレビジャパンのウェブサイトに作品の解説とストーリーがまとめられています)。歴史上の悲劇的な出来事の後に生まれた伝説に着想を得たストーリーですが、「こうであったらいい」というハッピーエンドを鮮やかに描き出していて「ミュージカルを観た」という満足感がありました。物語に対して好意的に思ったのは、主人公のアナスタシアが、おとぎ話によくあるようなプリンスに守られる対象としてのプリンセス像ではなく、自分で決断し、行動することで道を切り開いて行く自立した女性、一人の人間としてしっかりと魅力的に描かれていた点です。メロディックで多彩、かつ的確な音楽、豪華な衣装、そしてステージの背景のLEDスクリーンに映し出される壮観なプロジェクションによって、当時のロシアとフランスの街に実際に自分もいるかのような臨場感で物語を追う事ができたのも楽しい経験でした。

・Gatz 『ギャッツ』
こちらはF・スコット・フィッツジェラルドの代表作『華麗なるギャツビー』を舞台化したストレート・プレイです(こちらのブログHedgehog Noteに、2012年の公演に対する詳しいReviewが書かれています)。このショーの一番特徴的なところは、小説を一言一句変えずに全て朗読するところにあり、上演時間は休憩を含めて8時間に及びます。会場に着くと、舞台上には古びたオフィスの一室がセットされており、一体どのような公演になるのだろうと見当もつきませんでした。開演すると、そこで長年働いていると思しき人が出勤してきて、いつものように仕事に取りかかろうとするのですが、電源を入れてもコンピューターが立ち上がらない。起動を待つ間に手持ち無沙汰となり、机にあった小説を何気なく手に取って音読を始める、というところから二つの世界が交錯し始め、『華麗なるギャッツビー』の世界が紐解かれて行きます。8時間という観劇時間も練り上げられた演出と絶妙なペーシングで長いとは感じませんでした(観劇は一日がかりですが)。終始古びたオフィスの風景を観ながらにして、絶妙な役者の演技、演出、そして照明によって、その奥に確かにギャッツビーの生きる世界を観た、という感覚はとても心地良かったです。

二つの公演を振り返って、ミュージカルとストレート・プレイの特色をとても如実に感じられる公演だったなと思いました。ミュージカルは座って観ているだけで全ての情報がわかりやすく伝えられて感覚的に楽しめる、まるでジェットコースターのような舞台芸術で、一方ストレート・プレイは観客の想像力をかき立てることで個々人の中に固有の観劇体験が構築される、まるで地図をもらって宝探しをするようなような舞台芸術と例えられるでしょうか。どちらも良い、やはり舞台が好きだなと思いました。

2017年8月11日金曜日

プレゼンテーション本番



昨日無事にSweethearts of Swingの本番が終了しました。屋外のステージでのプレゼンテーションだったため、雨用の予備日も準備されていましたが、幸いにも晴天に恵まれました。

会場はマンハッタンから電車で1時間程の距離にある、The Pocantico CenterというThe Rockefeller Brothers Fundによって管理・運営されている歴史的な施設内にあり、お城のような建物や美しい景色に囲まれてのパフォーマンスとなりました。

実際のリハーサル期間は三日間という限られた時間だったのですが、演出家、音楽監督、作者、舞台監督やスタッフ全員の的確な仕事を通して、曲やシーンが急速にまとまってゆき、また演奏家/役者同士の関係が深まるにつれてキャラクター間の関係性にも還元されてゆくのなどを見るのは本当に刺激的でした。

自分の仕事ぶりには「これはできた」と思う事と「今後の課題」と思う点の両方ありますが、現場に入る度に作品や一緒に仕事をさせてもらったスタッフや役者から学ぶ事が本当に多く、お土産をたくさんもらって帰ってきたような気分です。

これからまた、次の仕事や自分のプロジェクトに生かしていきたいと思います。

〈8/13追記〉 Sweethearts of Swing のfacebook page にプレゼンテーションのスライドショーがアップされたのでご紹介させて頂きます。

Photos by Jody Christopherson. Music by Kat Sherrell.

2017年8月7日月曜日

Sweethearts of Swing


台風5号の被害を受けられた方にお見舞い申し上げます。昨今は本当に異常気象が多いように感じ、被害の報を聞くたびにやるせない気持ちになります。

ニューヨークはどちらかというと過ごしやすく、まだ秋の気配ではありませんが、もはや夏の気配でもないような日が続いていて不思議な感じです。

ここ数週間は現在制作が進行中のミュージカル、Sweethearts of Swingのプレゼンテーションに音楽助手として呼んでもらってスタッフに入っており、準備やリハーサルの日々を過ごしています。

このミュージカルはアメリカにおける人種差別がもっともひどかった時代に実際に存在し活躍した、女性のみで構成されたビッグバンドをモデルにした物語です。当時は聴く音楽すらも人種によって隔てられていた中、(人種が)有色の女性ばかりで構成されていたバンドに、白人の女性がメンバーとして加わったことによってバンドに巻き起こる葛藤と、彼女たちが社会に投げかけた疑問とその影響を、壮大なビッグバンドの音楽を通して描きます。

このミュージカルには数年前の初期段階のプレゼンテーションの際にも音楽助手として関わらせてもらったのですが、数年の間に作品としてもプロダクションとしても格段に発展していて、再び関わらせてもらうことができて感慨深く、現場から学ばせてもらうことも多くありがたいです。

前回は5人のバンド+アクターというコンパクトなプレゼンテーションだったところ、今回はより作品の目指す規模に近づき、12人のミュージシャンとシンガーがステージ上で演奏し、演技も受け持ちます。今回は作品の抜粋となりますが、一線で活躍するミュージシャンたちがアンサンブルとなって発揮する演奏の迫力、そして実際のミュージシャンが演じるミュージシャン像の説得力は圧倒的です。

今回の本番、そして今後の発展もぜひ大成功してほしいと思う素晴らしいミュージカルです。明後日本番なので、またその様子などもご報告させていただけたらと思います。

2015年6月10日水曜日

第八回:後書き


 以上、本編六回にわたってBMIワークショップ、及びそこで学んだミュージカル・ソング・ライティングについてまとめさせて頂きました。

 少しBMIワークショップに至るまでの個人的な経緯を振り返らせて頂きますと、ミュージカルを作曲することに興味を持ち始めたのは、大学の授業のプロジェクトとして同級生と制作したことがきっかけでした。もう約10年ほど前になります。それまでにも、もともとお芝居は好きで演じるということに憧れを持っていたのと、音楽の和声進行で人の表情を描き出せるのではないかということに興味があったので、今となってはそれらをコネクトできるのではという思いも少しはあったのだろうかと思いますが、当時はともかく単純に仲間との制作が楽しく、魅せられました。

 そしてBMIワークショップで、ミュージカル・ソング・ライティングおよびミュージカルの作りについて学びはじめると、ミュージカルがいかに感覚的に楽しめるべきものであり、そしてそのためにいかに緻密で論理的に作られているかを知るにつれ、益々制作に魅力とやりがいを感じました。同時に今のままの自分では太刀打ちできないと思うことも増えるばかりですが、できるようになりたい事が具体的に見つかっていくことはありがたいです。

 今年でアメリカに来て6年になるのですが、BMIワークショップでは、やはり言語と文化の理解におけるクラスメートとの差は歴然と感じています。ただ、それでも尚ミュージカルというアート・フォームに惹かれる思いは募るばかりで、作品の多様性や音楽の持つ作品における役割から、自分の持つ文化背景や音楽的背景によってこそ貢献できることもあるのではと微かながら信じて取り組んでいます。

 また、いつかは日本語のミュージカルを書きたいという思いも大きな目標としてあるのですが、今学んでいる事の中には英語という言語を前提として成り立っている事柄も非常に多いと感じるので、それらをどのように生かしていけるのかは、これからの課題として模索していきたいと思っています。

 長々となってしまい、お読み苦しい部分も多々あったかと思いますが、お付き合い下さり本当にありがとうございました。次回からは通常の投稿に戻りますが、また折に触れて、ミュージカルに関する記事を書いて行ければと思っています。

*追記:2025年8月3日に続編、「第九回:日本からBMIワークショップを目指す方へ」を投稿しました。ご興味持って頂けた方はぜひこちらもご覧ください。
 

2015年6月9日火曜日

第七回:BMIワークショップについて「コラボレーション」

 
 今回はBMIワークショップについての最終回として、「コラボレーション」について書きたいと思います。  

 これまでに、BMIワークショップの概要(第五回)とプログラムの概要(第六回)を見てくる中で、詳しく触れないまま「コラボレーション」という言葉を用いてきてしまったのですが、今回は私自身の経験も雑えながら少し掘り下げて書いてみたいと思います。

 まず、ソング・ライティングにおける「コラボレーション」の概要なのですが、「合作」というその単語の意味通り、作詞家と作曲家が共同で曲を書くこと、及びその過程を指します。ただその際に、どのような順番で、どのような割合で合作をするのかは、ペアによって様々に異なります。

 例えば作曲家リチャード・ロジャースは、作詞家ロレンツ・ハートとペアを組んでいた時(『パル・ジョーイ』、『シラキーズから来た男たち』等)はメロディーを先に書き上げて作詞を待ち、また作詞家オスカー・ハマースタイン2世と組んでいた時(『オクラホマ!』、『王様と私』等)には、先に書き上げられた歌詞に対して作曲したそうです[1]

 ただ、BMIワークショップでは、歌詞と音楽のどちらかを単独で先に書き上げてしまうのではなく、曲のアイディアを発想する段階からやり取りをして、二人でほぼ同時進行で書き上げて行く事を推奨されているので、私もそのように心がけてコラボレーションに取り組んできました。

 具体的には、まずコラボレーターと曲のアイディアを話し合って、”Hook"(フック)[2]を決めます。そして更に曲の構成を話し合った後、作詞家か作曲家のどちらかが先行して1セクション、もしくは1コーラスといったある程度まとまった量の素材を書いてコラボレーターに渡します。もらった方はそれに対してフィードバックを返し、調整のやり取りを経て方向性が定まったら、自分のパートを書き加えて返します。そのように、互いに触発されて書き進めながら、同時に調整を繰り返し、全体像を立ち上げていきます。

 その際、お互い作詞と作曲で、相手の分野には極力踏み入らないように気をつけるのですが、どうしても曲の方向性に対してしっくり来ないと思う場合には伝え合い、また自分の分野について客観的な意見を求めて相談することもあるので、最終的に出来上がった曲については、歌詞・音楽共に少なからず両方のアイディアが反映されていて、まさに合作という気がします。

 ちなみにコラボレーションの中で作詞家と作曲家のどちらが先行して書き始めるのかについては、音楽から先に書いた方が魅力的なメロディーが生まれやすいとされているので、私のペアでも基本的に毎曲そのように取り組んでいます。

 そうすることによって、英語が母国語でない私にとっては、言葉のアクセントや文章のイントネーションに沿わないメロディーをつけてしまう心配がない、という点でもありがたいのですが、同時に言葉の手がかりなしにメロディーを書き始めるのは、慣れるまで少し心もとなくもありました。ただ、メロディーにコラボレーターがつけてくれた歌詞を入れて歌ってみる瞬間は、歌に命が吹き込まれたかのようで、コラボレーションの中でも最もわくわくとする瞬間です。
 
 BMIワークショップでの二年間のコラボレーションを振り返ってみると、一年目はともかく様々な相手と組むことで、コラボレーションというプロセスを学びながら、一番心地よいと感じる取り組み方を探す過程だったように思います。二年目は一人のコラボレーターとじっくりと作品に向き合うことで、また非常に多くの事を学んだと感じています。

 以上、三回にわたってこちらも急ぎ足でBMIワークショップについてと、そこでの活動について書かせて頂きました。次回はあとがきにて、締めくくりとさせて頂きたいと思います。

*追記:2025年8月3日に続編、「第九回:日本からBMIワークショップを目指す方へ」を投稿しました。ご興味持って頂けた方はぜひこちらもご覧ください。

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[1] http://performingsongwriter.com/richard-rodgers/より
[2] Hook(フック)については第四回「歌の作り」をご参照ください。


2015年6月8日月曜日

第六回:BMIワークショップについて「プログラムの概要」


 今回はBMIワークショップのプログラムの概要について書かせて頂きます。

 クラスは一学年40人弱で、人数の内訳はLyricist(リリシスト:作詞家)とComposer(コンポーザー:作曲家)がだいたい半数ずつです(中には一人で両方を兼ねている人もいます。)。クラスメートのバックグラウンドは様々ですが、作詞家には比較的俳優出身の人が多く、作曲家はクラシック、ポップス、ジャズなど様々なジャンル出身の人がいます。

 プログラムの一年目では、年間を通してモデレーターから次々とソング・ライティングの課題が出され、その度に作詞家と作曲家のペアも発表されて、毎回違うコラボレーター[1] と課題に取り組みます。課題は、指定された既存の物語/キャラクター/シーンに、指定された曲種の曲を書くといったものです(例:「映画『欲望という名の電車』の主人公のブランチに、ストーリーの前半のシーンで、キャラクター・エスタブリッシュメント・ソング[2] を書く」)。課題と共にコラボレーターも目まぐるしく変わっていくので、お互いを通してコラボレーションのやり方を学んでいく感じでした。  

 二年目は、クラスメートの間で自分たちでペア[3] を組み、題材(既存の物語)を選び、一年間かけてミュージカルを書いていきます。クラスでプレゼンテーションするのは第一幕の曲のみ、かつオープニングナンバーを除くという指定がありますが、それ以外はペアで自由に書き進めることが出来て、段々クラスが、基礎を学ぶ場から、作品を書き進めるために批評をもらう場へと移行していきます。  

 三年目は、二年目以降に進んだ全てのライターが所属するのですが、ここはまさに各自が独自のプロジェクトを抱えて作品を書き進めている中、曲を試す場そのものであり、また定期的にある"Master class"(マスタークラス:公開レッスン)などで、第一線で活躍する講師の指導が受けられる機会も増します。  

 クラスにおける具体的な活動(一年目〜三年目まで共通)は、毎回5〜6組のペアによる曲のプレゼンテーションと、そしてそのそれぞれに対して行われる合評会です。合評会では、プレゼンテーションの際に観客側にいたクラスメートが、曲に対して感じた事(どこが良いと思い、どこがうまくいっていないと感じたか、または提案等)を次々とフィードバックしていき、最後にモデレーターがまとめのコメントをします。

 この合評会という活動によって、プレゼンテーションする側は、具体的に曲の書き直しの為のアイディアをもらえるばかりでなく、作品を通してソング・ライティングのノウハウを学べると同時に、その活動自体が客観的なフィードバックを冷静に受け止める練習になっています。そしてフィードバックを返す側にとっても、作品に対する批評眼を養う訓練になっていると思います。

 これらはマネス大の作曲科で勉強していた時にはなかった経験だったので、始めは批評を受ける事が怖かったのですが、クラスを重ねるごとに皆それなりに失敗する(良いと思って試したアイディアがうまくいかなかった等)ということと、むしろそれがクラス全体にとっての学びの機会になるということがわかり、段々恐れずにチャレンジできるようになっていきました。

 ちなみにクラスでのプレゼンテーションは、教室にあるピアノを使って、基本的には作詞家・作曲家自らが演奏することで行います。沢山のキャラクターが歌う曲などはクラスメートに手伝ってもらったり、また二年目以降は外部から歌手を連れて来てもいいことになっていますが、ぎりぎりまで書いていて人に演奏を頼むのが間に合わない場合もあり、その際は作詞家がキャラクターの名前を書いたカードを持って1人で何役もこなしたり、作曲家もピアノを弾きながら歌ったりして、なんとかプレゼンテーションを成立させます。

 また、クラスにおける配布物はレクチャーの際の資料やスケジュール以外はほとんどありません。課題は口頭で発表され、それぞれが映像や文献など資料などに当たって取り組み、またプレゼンテーションの際にも楽譜は配布せず、聴きながら分析をしてフィードバックを返します。はじめは何か心もとない気がしたのですが、慣れてくるとクラスに集まった「人」こそがお互いにとって教科書であり教師なのだなあと感じ、これほど実践的に学べる形式はないのではとすら思いました。

 今回は、BMIワークショップのプログラムの概要についてまとめさせて頂きました。次回はBMIワークショップについての最終回として、「コラボレーション」について書きたいと思います。

*追記:2025年8月3日に続編、「第九回:日本からBMIワークショップを目指す方へ」を投稿しました。ご興味持って頂けた方はぜひこちらもご覧ください。

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[1] ペアを組んでいる作詞家なり作曲家の事は、"Collaborator"(コラボレーター)と呼んだり、"Writing Partner"(ライティング・パートナー)と呼んだり様々なのですが、今回は「コラボレーター」で統一させて頂きます。

[2] キャラクター・エスタブリッシュメント・ソングとは、そのキャラクターの人柄、置かれている状況、人生観等の基本的な人物設定を凝縮した歌です。主要なキャラクターには、一幕の前半にこの曲を歌う機会が与えられます。第三回「サブテクスト」の時に例に挙げたシカゴの”All I Care About”も、曲種としてはこのカテゴリに当たります。

[3] 作詞家と作曲家のペアのことは"Writing Team”(ライティング・チーム)と呼ぶことが多いのですが、便宜上今回は「ペア」で統一させて頂きます。

2015年6月6日土曜日

第五回:BMIワークショップについて 「BMIワークショップの概要」

 
 今回からは、BMIワークショップについて三回にわたって書かせて頂きたいと思います。

 それではまず、BMIワークショップの概要についてご説明させていただきます。

 BMIとはBroadcast Music Incorporatedの略称で、アメリカにおける二大著作権協会のうちの1つ[1]です。そしてBMIワークショップとは、正式にはBMI Lehman Engel Musical Theatre Workshopといい、ブロードウェー・ミュージカルの往年の名指揮者であったリーマン・エンゲル氏[2]とBMIのパートナーシップによって1961年に設立されました

 以来、現在に至るまで数々のミュージカル作家を生み出してきました。有名なところでは、アラン・メンケン(『美女と野獣』)、モーリー・イェストン(『タイタニック』)、トム・キット&ブライアン・ヨーキー(『ネクスト・トゥ・ノーマル』)、ロバート・ロペス&ジェフ・マークス(『アベニューQ』)等が出身者です。  

 BMIワークショップに参加するには、毎年夏にオーディションがあり、合格すれば費用はBMIが持ってくれるので学費は必要ありません。二年間、週一回二時間のクラス[3]に参加する事で、Lyricist(リリシスト:作詞家)とComposer(コンポーザー:作曲家)のコラボレーションを通してミュージカル・ライティングの基礎と応用を学びます。そして、二年目の最後にオーディションがあり、それに通れば三年目以降のAdvanced Class(上級クラス)に参加する事ができます。

 今回は、手短かにBMIワークショップの概要について書かせて頂きました。ご興味のある方は、英語のページですが、こちらにBMIワークショップのモデレーター[4]パット・クック氏のインタビューが載っているのでご参照下さい。

 次回はBMIワークショップのプログラムの概要について書かせて頂きます。

*追記:2025年8月3日に続編、「第九回:日本からBMIワークショップを目指す方へ」を投稿しました。ご興味持って頂けた方はぜひこちらもご覧ください。

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[1] もう1つはASCAP (American Society of Composers, Authors and Publishers)。

[2] Lehman Engel (1910–1982):アメリカの作曲家、ブロードウェイ・ミュージカル、テレビ、映画の指揮者

[3]「ワークショップ」という言葉は色々な意味で使われるため定義するのが難しいのですが、BMIワークショップに関しては、その活動内容から実際には「クラス」に近く、そう呼ぶことも多いです。

[4] "Moderator”(モデレーター:司会者)とは、BMIワークショップのクラスをリードする、実質先生のことなのですが、ワークショップであるためかTeacherではなくModeratorと呼びます。

2015年6月5日金曜日

第四回:ミュージカル・ソングについて「歌の作り」

この数日思いがけず家のインターネットがダウンしてしまい、投稿に間が開いてしまいました(汗)今日から続きを書いていきたいと思います。
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 これまでの回で、ミュージカルにおける歌と台詞の役割(第二回「なぜ歌うか」)、ミュージカル・ソングにおける歌詞と音楽の役割(第三回「サブテキスト」)について見てきました。

 今回はミュージカル・ソングについての最終回として、歌の持つ効果という視点から、「歌の作り」について書いていきたいと思います。

 ミュージカルではそれぞれの曲は基本的には作中で一度しか聴かれないため [1]、その条件の中で歌という表現の効果が最大限発揮されるよう、「歌の作り」として以下のようなことが意識されています。

メロディー:歌いやすく、かつ歌詞が聞き取りやすいか
歌詞:論点は1つに絞られていて、かつそれが論理的に展開しているか 
音楽:特定の音楽ジャンルに寄りかかっていないか 
形式:AABA形式で書かれているか  
その他:Cliché(クリシェ:決まり文句)を無意識に使っていないか 

 メロディーについては、具体的には言葉のアクセントが正しく反映されているか、自然な英語のリズムで喋ったように聞こえるか、適度に正しく"Rhyme"(ライム:韻律)を踏んでいるか、そして言葉数が多すぎたり少なすぎたりしないか等が、メロディー自体の魅力もさることながら、良い歌の必要条件とされています。

 歌詞の論点は"Hook"(フック)という、歌詞(及びメロディー)の1フレーズに凝縮させます。このフックは曲中何度も繰り返され、大抵の場合、曲のタイトルにもなっているのですが(例:『ウェスト・サイド・ストーリー』"Maria"「マリア」)、これは論文でいうところの結論にあたり、歌詞の全ての内容がこのフックに向かって収束していくように論理を組み立てます。このような組み立ては、ミュージカル・ソングが曲の進行に沿ってその内容がスムーズに理解される必要がある為で、観客をつまづかせてしまうような論理的矛盾や、「考えれば理解できる」ような少しの論理的飛躍もないように展開することを目指します。

 形式については、近年のミュージカル・ソングの多くがポップス曲の「ヴァース‐コーラス形式」でも書かれていますが、物語や概念を伝えるには、本来このAABA形式(各セクションが8小節ずつの計32小節で1コーラスを構成する歌の形式)が最適とされており、多くの名曲もこの形式で書かれています(例:『ウェスト・サイド・ストーリー』”Tonight”「トゥナイト」)。

 特定の音楽ジャンルを用いると、その途端に音楽が一般化してしまい、キャラクターという個人の、固有の感情から距離ができてしまって、観客が真剣に感情移入することができなくなるとされています。作品全体が特定の時代や音楽ジャンルに属するような場合でない限りは、できるだけ特定の音楽ジャンルに寄りかかることは避け、キャラクター自身から自然と現れて来る音楽を模索します。

 ここで言うCliché(クリシェ:決まり文句)とは、歌詞における常套句もさることながら、音楽的に使い尽くされた決まり文句(特定のコード進行や、特定の音程を多用した伴奏形等)のことも指し、上記の、特定の音楽ジャンルを用いない事と同じ理由から避けるようにします。


 ここまで、歌の効果をより発揮するという視点で見てきましたが、言葉には歌う事によってその意味が増幅されるという側面もあり、そのため歌詞における言葉の選び方や内容によっては、必ずしも意図しないネガティブな効果が生まれてしまうことがあります。そのため以下のことも意識されています。

歌詞:禁句を使っていないか、内容が自己憐憫になっていないか 

 禁句を歌詞の中で表現として絶対に使ってはいけないわけではないのですが、その意味が増幅される事を念頭に置き、特別の意図がある場合(キャラクターの口癖であるとか、特に衝撃的な効果を出したい場合など)に限ってよほど慎重に使うべきとされています。また、コメディーとして笑い飛ばすのでない限りは、キャラクターが自己憐憫の内容を歌うと、観客が自身のコンプレックス等とリンクさせて捉えてしまう可能性があるため、こちらも避けるべきとされています。


 以上、箇条書きになってしまいましたが、歌のポジティブな効果を最大限に発揮させ、ネガティブな効果を最小限におさえる為に意図された歌の作りを見てきました。ソング・ライティングの際にはこれらを意識して取り組むのですが、互いに密接に絡み合う要素も多く、初稿からこれらを全てクリアするのはなかなか難しいです。実際にはまずはともかくベストだと思う状態に書き上げて、人に聴いてもらっては指摘を受け、書き直しを重ねる事で仕上げて行く、という行程を辿ることが多く、BMIワークショップでもその活動を重ねています。

 以上、三回を通して駆け足ながらミュージカル・ソング、及びそのライティングについて、特に重要であると感じている事をまとめてみました。次回からはBMIワークショップについて書かせて頂きます。

*追記:2025年8月3日に続編、「第九回:日本からBMIワークショップを目指す方へ」を投稿しました。ご興味持って頂けた方はぜひこちらもご覧ください。

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[1] “Reprise”(リプライズ)として、作品にとって特に重要な曲などが作品の後半で再び歌われることはあります。

2015年5月31日日曜日

第三回:ミュージカル・ソングについて「サブテキスト」

 
 今回は"Subtext"(サブテキスト)という概念について、ミュージカル・ソングにおける歌詞と音楽の役割とも合わせながら書いていきたいと思います。

 「サブテキスト」とは"Text"(テキスト)に対する"Subtext"(サブテキスト)、すなわち「文章」に対してその「行間」にあたり、芝居においては台詞や行動で表していることに対して、その裏にある考えや感情にあたります。

 サブテキストは、日常においても様々な形で存在すると思うのですが、例えば、本当はものすごく辛い時でも「大丈夫?」と聞かれると、相手に心配をかけたくない等の思いから、「全然平気!」と応えたりするような場合、「本当はものすごく辛いけど、心配はかけたくない。」というのがサブテキストです。

 この矛盾した状態を、ミュージカルにおいては歌で絶妙に表す事ができます。というのも、ミュージカル・ソングにおいては、それぞれ歌詞がテキストを、音楽がサブテキストを担当するためです。

 先ほどの例にあてはめると、歌詞では「全然平気!」と言っていても、音楽が「ものすごく辛い」感じだった場合、観客はそのミスマッチに気づき、そして「ああ、本当は辛いけど、無理して平気と言っているんだな。」とわかります。

 実在のミュージカル・ソングでは、『シカゴ』で、弁護士のビリー・フリンが歌う、"All I Care About"(「私にとって大切なのは」)が良い例かと思います。この曲でビリーは、一貫して「お金なんかいらない。私にとって大切なのは愛なんだ。」と歌詞では真摯(そう)な主張を展開しますが、一方音楽は実に軽妙で、むしろ彼の話術や世渡りのうまさの方を想起させます。結局、その後のストーリーの流れからも、彼にとって大切なのがお金であることは明白になり、タイトルで"All I Care About (Is Love)"と言い切らないことでそれを暗示しているのも絶妙だなと思います。

 そのようにミュージカル・ソングにおいては、キャラクター [1] にその考えや感情をあからさまに歌詞として歌わせるのではなく、上記のようにサブテキストとして音楽で語らせるようにするので、その表現が成り立つ前提として、歌詞はあえて嘘をつくことができる一方で、音楽はいつも本当の感情を語るように作られています(音楽は歌の「嘘発見機」とも称されます)。

 そのため、もし描き出そうとしている感情が音楽で的確に表せていない場合は、それ自体がどんなに素敵な曲であっても、残念ながらミュージカル・ソングとしては機能していないということになります。

 今回は「サブテキスト」という概念について、ミュージカル・ソングにおける歌詞と音楽の役割と合わせてまとめてみました。次回は、ミュージカル・ソングについての最終回として、「歌の作り」について書きたいと思います。

*追記:2025年8月3日に続編、「第九回:日本からBMIワークショップを目指す方へ」を投稿しました。ご興味持って頂けた方はぜひこちらもご覧ください。

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[1] "Character"(キャラクター)は「登場人物」のことなのですが、キャラクターと言う語の方が、それぞれの人格を指す意識が感じられるように思うので、今回は「キャラクター」の語で統一させて頂きます。

2015年5月30日土曜日

第二回:ミュージカル・ソングについて「なぜ歌うか」


 今回からは三回にわたって、BMIワークショップに参加する中で学んだミュージカル・ソング、及びそのライティングについてまとめさせて頂きたいと思います。

 それでは今回は、ミュージカルでは「なぜ歌うか」、ミュージカルにおける歌うという表現について書いていきたいと思います。

 歌うという表現は、ミュージカルにおいて特徴的な表現形式の1つですが、ただしミュージカルではエンターテインメントの為だけに、芝居の中に音楽を挿入したり、台詞を無理矢理歌にしているわけではなく、物語をより良く伝える目的で、歌には歌の、台詞には台詞の役割が明確に意図されています。

 というのも、同じ情報量を伝えるのであれば、実際には歌うよりも台詞で言った方が短時間ですむわけですが、逆に歌だからこそできることがあり、その効果は"Magic of Musical Theatre"(ミュージカルの魔法)とも呼ばれます。

 例えば、「出会ったばかりの二人が恋に落ちる」とか「あっという間に月日が流れて」という、台詞のやり取りで自然に観せるには、ある程度まとまった時間のかかるストーリー展開が、歌と、更に照明や装置の転換を以てすれば、ほんの数分のうちに成し遂げられてしまいます。それは、歌という非日常的な表現によって、まさに魔法がかかったように、急激な場面転換やストーリーの加速さえも自然に受け入れられてしまう、ということなのではないかと思います。

 ただし、歌は基本的に感情を歌い上げる劇的な表現なので、ストーリー展開の為に観客にしっかりと聞いておいてもらいたい情報などは、台詞で淡々と展開した方が効果的なこともあり、どこを歌にするかという"Song Moment"(ソング・モーメント)の見極めは、制作において非常に重要な部分です。

 また、ミュージカル・ソングの傑作の中には、後にスタンダードとしてそれ自体が大ヒットした曲もありますが、制作の段階ではどの曲もあくまで作品の一部として意図されており、物語を進める役割を担っているので、ミュージカル・ソングは他のジャンルの歌とは内容的に少し違った特徴を持っています。

 それは「感情が頂点まで高まった場面で歌い出す」という点と、そして「歌い終わった時には別の境地に辿り着いている」という点です。それに関して、作曲家ジェイソン・ロバート・ブラウン[1]が、あるインタビューの中で「(ミュージカル・ソングと対比して)ポップス曲では、感情が必ずしもどこかに向かう必要がないので、それはそれで書くのが楽しい。」と語っていたのを聞いたことがあり、印象的でした。

 すなわち、感情が高まっていない場面はミュージカルにおけるソング・モーメントではないですし、歌い終わった時に心境的に何も変化していなければ、それもミュージカル・ソングとして成功しているとは言えないことになります。

 また、歌うということがミュージカルにおける1つの表現形式であることから、登場人物が「自分は今歌っている」と認識しながら歌っているような歌も、基本的にはタブーとされています(例外はあるそうです)。

 今回はミュージカルにおける歌うという表現についてまとめてみました。次回は「サブテキスト」という概念について書きたいと思います。

*追記:2025年8月3日に続編、「第九回:日本からBMIワークショップを目指す方へ」を投稿しました。ご興味持って頂けた方はぜひこちらもご覧ください。

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[1] Jason Robert Brown (1970 - ):トニー賞受賞作品『パレード』、『マディソン郡の橋』の作曲者

2015年5月29日金曜日

第一回:前書き

 
 予告させて頂いてから少し時間が開いてしまいましたが、今回から全八回にわたってBMIワークショップ、及びそこで学んだミュージカル・ソング・ライティングについて少しまとめてみたいと思います。  

 まだまだ勉強中の身ですが、ここでの経験を様々な形で(作品が一番ですが!)発信していきたいという思いから、今後定期的に振り返っては修正していくつもりで、書かせて頂ければと思います。少しマニアックな内容になってしまうかと思いますが、願わくばミュージカル[1]に興味のある方にも、そうでもない方にも、少しでも面白く読んで頂ければ幸いです。 

 今回は、私がBMIワークショップに参加する中で、特にソング・ライティングについて学んだことを、適宜それに対する考察を雑えながら書かせて頂きます。いずれは文献等参照して内容を補強するとともに、ミュージカル作品全体の組み立てや、上演に至るまでのプロセスについて、またBMI以外のワークショップやプログラム、フェスティバル、アワード等、そしてできればアメリカ以外の国でのミュージカルについても、あらためてまとめられる機会があればと考えています。

 それでは次回から、まずはミュージカル・ソングについて三回に分けて書いていきたいと思います。

*追記:2025年8月3日に続編、「第九回:日本からBMIワークショップを目指す方へ」を投稿しました。ご興味持って頂けた方はぜひこちらもご覧ください。

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[1] 英語では「ミュージカル」のことを"Musical Theatre"(ミュージカル・シアター)と呼ぶことが多いのですが、今回は「ミュージカル」で統一させて頂きます。