2013年1月7日月曜日

散文:影

親が子どもの小さかった頃の話をするとき、それは愛おしくもどこか寂しい。小さかったその子はもういない。大人になったその子は、記憶で過去とつながっていても、どこかで少し他人。

そうか、人は縦一筋に生きているのではないのだ。横に存在した自分は様々な影を残しながらも、常に失われていく。小さかったあの子も、元気だったおばあちゃんも、もうここにはいないのだ。

思い出を語る時、人は知らず知らずに故人のことのように語る。死んだ時初めてその人の思い出が無数の影になって走り去るわけでなく、私もあなたも既に沢山の影を抱えているのだ。

失われた影を抱きしめて、人は生きる。

私はあなたの影を覚えていよう。
この先の未来に関わらず、今私と共に生きてくれたあなたの影を、命の限り覚えていよう。