2017年12月30日土曜日

2017の振り返り




写真からは伝わりにくいのですが(よく見ると水面から湯気が漂っています)、ここのところニューヨークは最高気温が零下という寒さが続いています。室内は温かいので良いのですが、外に出る時はかなりの早足で目的地に着かないと、本当に顔が凍ってしまいそうです。。

12月は仕事先のピアノ教室の発表会や、教会ではクリスマスの特別ミサなどがあり、準備や予定調整になんだかバタバタしていました。一つ一つが終わっていく度にほっとしながら、気がつくともう大晦日で少し残念です…。年が明けてしまう前に、今年の活動について少し振り返ってみたいと思います。

2月:
幻想曲「信濃の国」"Shinano no Kuni Fantasy" (録音&ラジオ放送)
https://soundcloud.com/ayumiokada/shinano-no-kuni-fantasy

3月:
The Grey Wolf(世界初演)
https://www.youtube.com/watch?v=cb1V9rshAv0

5月:
The Gray Wolf (イラストレーション・ビデオ)
https://youtu.be/N4h_2ONLq14

8月:
Sweethearts of Swing Pocantico Center Presentation(写譜&音楽助手)
https://www.facebook.com/Swingsical/videos/1278149522307125/

11月:
In the Shade of an Acacia Tree (楽譜出版&ビデオ)
https://youtu.be/k2zzLnaC7cI (Violin)
https://youtu.be/HCADidmTtaY (Viola)

その時々に何かしら取り組んできたと思っていたのですが、演奏やビデオ等、公に発表できたものだけをリストアップしてみると、思っていたよりも少なかったです。

今年は教会やTeachingの仕事が増えたり、引越などの生活の変化もあったので、来年はぜひ少し落ち着いて、水面下で進めているミュージカルのプロジェクトも含めて、発表の機会を増やせるように頑張りたいと思います。

あまり頻繁に更新できなかったのですが、それでも時折ブログを訪れて下さり、投稿をご覧下さって、今年も本当にありがとうございました。来年こそはもう少し安定したペースでの更新を目指したいと思います!2018年も皆さまにとって素晴らしい年となりますように。どうぞ良い年をお迎えください。

2017年11月26日日曜日

サンクスギビングに思った事



先日は例年にない過ごしやすい気温・お天気のサンクスギビングでした。当日は友達のおばあさまのお宅での夕食会にお呼ばれし、食後にはご馳走のお礼に友達と演奏を披露したりして、とても良い休暇を過ごせました。

サンクスギビングは11月の第4木曜日、週の真ん中の一日だけの休日なので、忙しい年には家に留まって黙々と過ごしたこともあるのですが、今年は家を離れて思いのほかリラックスできました。その理由の一つには、先日ViolinとViolaの為の曲のビデオを発表できたことや、その他にも諸々気になっていた事が一段落したタイミングが重なったこともありました。

そう考えると、人生とは枠のないジグソーパズルを中心から始めて外側に広げていくようなことなのかなと思いました。自分にとってとりかかりやすそうなスポットを見つけ、そこにはまるピースを探し、今はめたピースがその後のピースを呼び込む形を形成して。いくつものピースを同時に探している時は不安がいっぱいで、探していたピースが立て続けに見つかった時にはつかの間ほっとして。時に思ったようにならないことや予期せぬ事、自分以外の力に助けてもらったことも含めて形成された絵を、時々俯瞰してしみじみと見てみる時間も大切かなと思いました。

2017年11月18日土曜日

In the Shade of an Acacia Tree(「アカシアの木蔭で」)




またまたご無沙汰してしまいました…、元気にしております!日々の生活の小さなことから(ちなみに先日無事またベーグル屋さんに行くことができました!)、ここ最近の作曲に関わる活動まで書きたいことは沢山あるのですが、時間に追われてしまっております。またちょこちょこと書いて行きたいなと思っておりますので、おつきあい頂けたら幸いです。

今日はつい最近YouTubeに載せたばかりの新曲のビデオのご紹介をさせて頂きます。弦楽器の為のソロ曲 "In the Shade of an Acacia Tree"(「アカシアの木蔭で」)で、それぞれヴァイオリンとヴィオラのバージョンです。

近年進路のことで疲弊していた時期に、一時休める木陰のような存在の曲が欲しいと思って書いた曲です。良き友人であり素晴らしい演奏家の二人に演奏してもらえて、ついにビデオとして皆様とシェアさせて頂ける事がとても感慨深いです。ぜひご覧頂けたら幸いです。

2017年10月1日日曜日

ベーグルの葛藤


今日はちょっと日常の小話を載せさせてください。ベーグルに関してちょっと悪いことをしてしまったなと思う告白です。。

***
先日お昼過ぎから伴奏の仕事があったので、その前に洗濯を済ませるべく朝早く起きて出かけました(ニューヨークでは洗濯機が各家庭もしくはアパートの建物内にあることは稀なので、大概の人は週に数回まとめてコインランドリーで洗濯します)。

洗濯する朝は近所のベーグル屋さんで朝食を食べて良いことに決めているので、洗濯を回して、ベーグルを買いに行きました。そして公園について、さあ食べようと包みを開くと、ベーグルに挟んであるクリームチーズが頼んだものと違うことに気がつきました。「ああ、もしかして取り違えられちゃったのかな」と思いながらよく見ると、なんとサーモンまで入っていました。「これは…、そもそも価格の違うベーグルではないか!」朝の時間帯でお店は混雑していたし、取り違えが起こりそうな事は容易に想像できたのですが、もう公園までたどり着いて、すっかり食べる気分になっていて、それでもここは戻って「違いました。」と言うべきなのか。そうしたら「あ、ごめんなさいね。それじゃ作り直しますね。」ということになるのか。そしたらそこからまた5分、公園に戻って5分…。そうこうしてるうちに洗濯が出来上がってしまうのでゆっくり食べられない…。そもそも、もう取り違えられた別の方の人もどこかに行っちゃっているかもしれないし、持ち帰ったところでそんなに意味ないんじゃないか。私だってもう電車に乗って戻れない位の距離に行っていた可能性もあるし、買ったベーグルをしばらく開けずに気づかないことだってあり得るし。と思って、次の瞬間にはこれといった決心もなく食べ始めてしまっていました(!)食べるにつれて悪い事をしているような気がしてきましたが、もう遅いとわかっていたので結局食べ切ってしまいました。そして、罪悪感を背負いこんで一日をスタートしたのでした。。

まだクリームチーズが違っただけならそこまでの良心の呵責もなく、あまり考えもせずに食べていた(結局食べる。。)かもしれないですが、なにせ手元にあったベーグルが頼んだものより高かったので、その値段を払っていないということと、私よりも多く払った人の手元にその人の頼んだより質素なベーグルがあって、それがわかっていながらこれを食べるということはやっぱり悪い事のような気がしました(ごめんなさい)。とはいえ、渡されたものがそれであると信じて代金を払ってきたので、取り違えに関して私に責任はなかったはずだとも思いました。そしてもし取り違えられた向こうの人が戻ってこれる距離で気づいて戻ったなら、お店がもう一度その人の為に作り直してくれるはずなのです。。

そういう様々の葛藤の中で思ったのは、罪が罪であるかは実際微妙なラインで有り得るということでした。今回「もし帰れない距離まで行っていたり、気づくのが遅れたら戻ることはできないのだから。」と自分を正当化しようとしたのですが、でも今回に関しては実際その”もし”ではなくて、割とすぐに気づいてかつ5分程度で戻れる距離にいたのです。少なくとも褒められた行いではなかったなと反省しています。

予定外のトラブルが外側から入って来たとき、自分でコストを払ってそれを請け負う余裕があるのかどうか。自分も人にそうやって助けてもらって来たと思うので、そう努めるべきだと思うのですが、今回は「ああなってこうなって、こうなるかもしれなくて、これだけ時間がかかって。。」と想像すると、朝の予定を計画通りにこなしたい思いの方が強く、ちょっとできないかな、と思ってしまったのだと思います。

ちなみに、その後洗濯屋さんに戻るってみると、実はそこまで歩くのに時間がかからず、それならやっぱり戻ればよかったのかな。と思いました。人間は行動する前に想像でプレビューを作って実行するかどうかを判断するものだと思いますが、そのプレビューが往々にして実際と違うことがあるところが難しいなあと思いました。

ともかく、悪いことをしたと思ってそのベーグル屋さんに行きにくくなってしまいました。。。
***

お付き合いいただきありがとうございました。

2017年9月22日金曜日

First day of fall (秋分の日)



今日はお彼岸の中日、そして秋の始まりの日ということで、NYの気温はまだそこまで低くはないものの、空気の中にはどこか秋らしい雰囲気を感じます。

写真はミッドタウンのブライアント・パークに出ていたお花(サボテン?)のお店です。カボチャのアレンジメントがかわいらしいです。

先日引越をし新しい環境で生活を始めました。ニューヨーク市内での引越の為、生活に大きな変化はないかなと思っていましたが、広くはないこの街もエリアによって随分と雰囲気が違うので、新しいエリアでの生活は思っていた以上に新鮮で少しわくわくしています。

2017年9月7日木曜日

Tannat Wine & Cheese




いつもお世話になっている、Listen Closelyの活動拠点であるニューヨークのインウッド(アッパーマンハッタン)に来月オープン予定のワイン・バー、"Tannat Wine & Cheese"のプロモーション・ビデオのサントラに、拙作の弦楽四重奏第一番を使ってもらえました。

この音源は2年前、インウッドの教会にて、地元の演奏家達にレコーディングしてもらったものなので、このように更に地元のビジネスとコラボレーションする機会に恵まれとても感慨深いです!


2017年9月1日金曜日

8周年



ショートショートの投稿が続きましたが、先日ニューヨークに来て8周年の記念日を迎えました。(実は今年はまたばたばたとしていて、気がついた時には既に一週間ぐらい過ぎてしまっていたのですが…。)

2年間の留学のつもりでMannes大を受験して以来、色々な出来事、人々の助けと機会に恵まれ、ここまで来ることができたのだなあと改めて本当にありがたく思い、そして同時に旅も深まってきたなあと思います。以前は旅の目的とは、何かを手に入れに行くことだと思っていたのですが、最近は、抱えていたものを手放しにいくということもまたその一つだったのかもしれないと思っています。自分にとって新しい文化や人や社会に触れ、その上で自分自身に対して色々の決断をして進んでいく中で、それまでにしがみ付いていた「これしかない」という価値観から徐々に解放されて、少し気が楽になってきたようにも感じます。(個人の感想ですが…)

とはいえ、新しいことに挑戦する時や、新しい環境に入る際には未だに毎回ひとしきり大騒ぎしてしまうのですが(汗)これはもう仕方が無いと割り切って、一日一日を益々精一杯に進んで参りたいと思います。

*写真は関連はないのですが、先日通りがかった夜のニューヨーク市立図書館です。

2017年8月31日木曜日

ショートショート:死神とのティータイム


もやもやとした考えを巡らせながら歩いていて、交差点で道路を渡ろうとした時、ふと交差する信号の向こう側に立っている老紳士の姿が目に入った。どこかで会った事があるような気がしたが、思い出せずにふと足を止めた。すると突然目の前を車がスリップして、すごいスピードで僕の鼻先を走りすぎて行った。もしあのままこの道路を渡ろうとしていたら…。一瞬の出来事に気が動転していると、いつの間にか先ほどの老紳士がすぐ側に立っていて、僕はもう一度心臓が口から飛び出しそうになった。

彼は僕に声をかけた。
「こんなことってあるんですねえ。」
「ええ、あんなに急に車が突っ込んで来るなんて。本当にびっくりしました…。」
「いえ、私が言っているのはそういうことではなくて。」
「はあ?」
「あなた本当は、今そこで命を落とすはずだったんですよ。」
「はあ!?」
「きっと向こうの方で記述に変更があったんだな。」
そう言うと老紳士はジャケットの内ポケットから文庫本のような小さな冊子を取り出し、目次のページに目を落とした。ちらりと目をやると、その表紙にはなんと僕の名前が書いてあるではないか!
「やっぱりだ。章の数が増えている。おそらく直前で変更になったんだな。おかしいと思ったんですよ。そもそも本来なら、さっきあなたに私の姿が見えるはずなんてなかったんだから。」
「ちょっと、何を言ってるんですか。あなた一体誰なんです!!」
僕はわけがわからず、恐ろしくなって叫んだ。
「死神ですよ。」
老紳士は躊躇いもなく答えた。
僕は絶句した。
「心配しないで下さい。あなたの死期は延長されましたから。今日のところはお連れ致しはしませんよ。」
僕はほっとするやら、未だに半信半疑やらで、目を白黒させながら状況を理解しようと四苦八苦していた。
「しかし急に時間ができてしまったなあ。せっかくこちらまで来たから、せめてお茶の一杯でも飲んで帰りたいが。そうだ、あなたもしよかったら付き合ってくれませんか?ごちそうしますよ。」
それを聞いて僕は、もはやこの出来事に対するなんらかの説明を聞かないことにはどうにもならないと、すがるような思いでついて行った。

「ここのダイナーはアップルパイがうまいんだ。アイスがのってるやつ。あなたもそれでいいですか?飲み物はコーヒー?あ、そういえばお茶に誘ったんだっけ。」
死神が慣れた感じで早々に二人分の注文をしてくれた。
「今日は思いがけずゆっくり出来て助かったなあ。ここのところずっと忙しかったから。」
「はあ…。」
「まあそう緊張せずに。死神とお茶することなんてそうそうないでしょう。今日は気分がいいから、聞きたい事があれば何でも答えますよ。とはいえ、私と別れた瞬間にあなたは私と出会ったことすらすっかり忘れてしまうんですけどね。でもまあ九死に一生を得たあなたには、たとえ短い間でも人生の真理を知るくらいの特権はありますよ。さ、どうぞ。何でも聞いてください。」
「ではお言葉に甘えて…。あなたはなぜさっきあんな所にいたんですか?僕の命を奪いにきたのなら、あんな離れた所にいたんじゃそもそも間に合わなかったんじゃないかと思うんですが。」
「はは、私はあなたの命を奪いにきたわけではありません。お迎えに来ただけですから。魂が身体から離れる瞬間に側にいることが重要だったのです。」
「はあ…。」
「死神というと、まるで好んで死をもたらすみたいなイメージを持たれがちなんですけど、実際はその逆で、それが起こらなくてはならない時に、魂をお守りするために来ているんです。身体を離れる刹那というのは、魂にとって大変不安定な瞬間ですからね。その一瞬にしっかりと手をとって差し上げ、その手を引いて彼方まで無事にお連れするのが私の仕事です。」
「はあ…。そうだったんですね。ちなみにもう一つ聞いてもいいですか。」
「どうぞ。」
「死神というと、大きな鎌を手にした、骸骨みたいな顔の、いわゆるタロットカードの絵柄にある恐ろしいイメージなんですけど、今のあなたは穏やかな老紳士に見えます。いったいどちらが本当の姿なんですか?」
「どちらの姿も本当であり、またそうでもないとも言えるんですが、とりあえず骸骨の方は外界向けの姿です。恐ろしい姿でいることで、道中ちょっかいをかけてくるめんどうな輩を寄せ付けないようにしています。」
「では、老紳士の方は?」
「これはあなた向けの姿です。」
「僕向けの?」
「ええ。私はいつもお迎えに行く時には、その人が一番会いたいと思っている、既に彼方に渡った親しい人のお姿をお借りして行くようにしているんです。最も不安なときだからこそ、最も信頼している人に迎えに来て欲しいでしょ。」
それで僕はようやく合点がいった。この人は、写真でしか見た事のない僕の祖父にそっくりなのだ。
「あなたの場合はおじいさんだったようですね。」
「ええ。僕が赤ん坊の頃に亡くなってしまったのですが…。まさかこんな風にして、実際に会える時が来るなんて思っていませんでした。」
もはや祖父にしか見えないその老紳士は微かに微笑んだ。

「今までにいろんな魂を看取ってきましたよ。正直言って楽な仕事じゃないです。様々な人生がありますからね。でもね、魂が身体を離れる瞬間にしっかりと手を取って差し上げると、皆さん本当にほっとした顔をされるんです。それを見ると私はもう、大変な使命感を感じて、必ず無事にお連れするぞといつも思うのです。」
「そうなんですか…。」
「ところで今度は私から質問してもいいですか?」
「ど、どうぞ。」
「あなた、さっき私の方を見上げるまで、随分元気のない様子でしたけど、何か悩みでもおありですか?」
意外な質問に驚きながら僕は答えた。
「いや、別に何がって訳じゃないんですけど、ちょっと最近疲れちゃって。」
「ほうほう。」
「夢があって僕はこの街に来たんです。がむしゃらにやってきて、今もまだここにいられる事に感謝していて、やってきたことに対する誇りもあります。でもなんだか未だにその先が見えなくて。幸せなはずなのに疲れちゃって。このままでいいんだろうか、と考え始めると止まらなくなることがあるんです。」
「なるほど。ではもうこの際なので、もし良ければちょっと見て差し上げましょうか。」
「見るって何をですか?」
老紳士は内ポケットから再び僕の名の書かれた小冊子を取り出した。
「こちらは、あなたの閻魔帳の写しでしてね。」
「は!?」
「あなたの人生の顛末が書いてあるんです。」
「ええー!!!」
「ご自分でご覧になりますか?」
「いえいえ!!とても怖くて見る勇気がないです…。」
「そうでしょうね。なあに代わりに私がざっと見て差し上げますよ。どれどれ。」
老紳士が素早く冊子を読み流して行くのを見ながら、僕は生きている心地がしなかった。
ついに老紳士は冊子をぱたりと閉じると言った。
「大丈夫ですよ。」
「へ!?」
「あなたは今のまま、そのまま進んで行けば良いです。」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。何が起こるか具体的な事はあえて言いませんが、あなたの選んだ道は間違っていない。あなた自身の幸せの為に正しい道を進んでいますよ。」
「あ、ありがとうございます…。」
死神の言う事を信じていいのかどうか、それ以前にこの展開自体がもはや現実なのかどうかもわからなかったが、それでいて僕はとても救われた気がした。
『お前の選んだ道は間違っていない』ただ誰かにそう言って欲しかったのかもしれない。

「さて、小腹も満たされたし、そろそろ行きましょうか。」
約束通り死神が僕の分もごちそうしてくれて、僕たちは店を出た。そして、初めに出会った交差点まで戻って来た。
「それじゃ、私は行きますね。さっきも言った通り、私の姿があなたの視界から消えた瞬間に、あなたの記憶から私は消え去ります。でも心配しないで下さいね。あなたはそれから、ただ今まで通りの人生を歩んでいくだけです。」
「なんだか、お名残惜しいです。」
「はは、そんな言葉をかけてもらったのは初めてですよ。こちらこそ、お茶に付き合ってくれてありがとう。あなたにその時が訪れた時には、きっと私がしっかりお手をとって差し上げますから。心配しないで、それまで目一杯生きてくださいね!ではごきげんよう。」
僕は死神が遠ざかっていくのを、その背中がついに見えなくなるまで見送った。

**************
ショートショート続きになりますが、勢いでこちらも書き起こしてみたので載せさせて頂きます。今回も設定はあまり吟味できておらず、ダイナーやアイスののったアップルパイなどは思いきりアメリカですが(汗)さらりと流して読んで頂けると幸いです。

2017年8月28日月曜日

ショートショート:再会の日


「ただいま。」
「あ、母さん。おかえりなさい。お疲れさま。着替えてきたら?お茶を淹れるわ。」
「ありがとう。」

喪服から部屋着に着替えて戻ると、居間には娘の淹れてくれたお茶の良い香りが立ち込めていた。熱いお茶を一口啜ると、ようやく一息つくことができた。

「大変だったわね。母さん、◯◯さんとは高校時代からの親友だったんでしょう?」
「ええ。もう随分連絡をとっていなかったんだけど、でもまさかこんなに急にお別れがくるとは思っていなかったからね。」
「母さん、大丈夫?」
「ありがとう。大丈夫よ。もうこの年齢になるとね、人生色々なことがあるのは段々わかってきたからね。」
「そう。」
「それにね、今となっては不思議なことなんだけど、◯◯ちゃんとはもう随分昔に、すでにお別れをしてあったのよ。」
「どういうこと?」
「お別れというかね、「再会の日」を過ごしてあるの。」
「再会の日?」
「そう。高校の卒業式の前日だったんだけど、私たちそれぞれ別の県の大学に行くことが決まっていたから、これからは今までのように毎日一緒に通学したり、遊んだりできなくなることがわかっていて名残惜しくてね。帰りの駅で、二人で何本も電車を見送りながら、しばらく待合室で座っていたの。」
「うんうん。」
「その時彼女がおもむろに不思議なことを言ったのよ。『ねえ△△ちゃん、今から今日を「再会の日」のつもりで過ごしてみない?』って。私なんのことかわからなくてね、どういうこと?って聞いたのよ。すると彼女が言ったの。」

・・・・・

「私たち、これから別々の人生を歩んでいくじゃない?離れるのは寂しいし、これからもずっと親友でいたいって思っているけど、でもどうなるか本当のところはわからないじゃない。」
「そうだけど…。でも寂しくなっちゃうから、今はあんまり考えないでおこうよ。」
「うん、そうなんだけど。でもねえ△△ちゃん、映画の『タイタニック』覚えてる?」
「うん、一緒に映画館に観に行ったよね。」
「そうそう。あの映画の最後で、年老いたローズが亡くなる瞬間に、夢の中でタイタニックに戻って、祝福する乗客の皆に迎えられてジャックと再会するシーンがあったじゃない?私あのシーンがすごく好きでね。」
「私も!その後の人生の方が長かったのに、ローズが戻りたいって思う一番幸せだった瞬間って、やっぱりジャックと一緒にいたあの時だったんだって感動した!」
「その通りなのよ。そして私にとっては、今がそういう風にいつか戻りたいって思うような瞬間の一つなんじゃないかなって思うの。」
「◯◯ちゃん…。」
「だからね、例えば今、一気に30年位を駆け抜けたつもりになって、振り返って『あの時に戻りたい!そして△△ちゃんともう一度、思いっきりおしゃべりをしたい!』って思った願いが叶ったんだと思って過ごしておけば、この先何があっても私たち、大丈夫なんじゃないかなと思ってね。」
「うん…。私もそう思う。そうしよう!今日は目一杯再会の日を楽しもう!」

・・・・・

「そうして、私たちはついに電車に乗って、よく帰り道に寄った駄菓子屋さんに行ってたこ焼きを食べたり、いつも座っておしゃべりした河原にも行ったりして、日が暮れるまで一緒に過ごしたわ。その時はその後の30年に起こることなんて、まったく想像もつかなかったけれど、でも今この瞬間がいつか戻りたいと思うような過去なんだっていう考えは、すごくしっくりきたの。そして結局、それが彼女とゆっくりおしゃべりした最後になってしまったわ。手紙のやり取りは折に触れて続けていたけれど、それぞれに結婚もして、住む場所も離れてしまったからね。」
「そうだったの。」
「彼女とその後の人生も身近に支え合って歩むことができなかったのは残念だったけれど、でもそういう風に私たちはもう再会の日を過ごしてあるから、私、あの時彼女が言ったように、大丈夫な気がするわ。」
「母さん…。」
「それにそのことで、彼女からもう一つ大切な贈り物をもらっていた気がするの。」
「どういうこと?」
「大切な人と一緒にいられる時間を、いつだってそういう風に過ごしなさい。って教えてもらった気がするのよ。最後の日がいつになってしまうかなんてわからないけど、最高の一日を、その日なんだって思って大事に過ごすことはできるわ。あなたとこうしてお茶を飲む時間だって、私にとってそういう時間なの。いつかきっと戻りたいと思うようなかけがえのない時間、心の中でいつまでも抱きしめていたいくらい。」
そうして顔を見合わせた途端、涙が溢れ出て、私たちはしばらく何も言わずに一緒に泣いた。そしてもう一杯お茶を淹れて、ゆっくりと飲んだのだった。

**************
久々のショートショートです。しばらく持っていたアイディアなのですが、ふと気が向いたのでひとまず書き起こしてみました。設定に甘いところ(『タイタニック』は1997年の映画なのですが、娘は大学生ぐらいのイメージ。。。)が多々あり恐縮ですが、ご一読いただけたなら幸いです。

2017年8月21日月曜日

日食



昼過ぎに外に出ると人々がみんなして空を見上げていて、一瞬「?」と思いましたが、その時ちょうど日食が起こっていたのでした。「ああ!」と気がつき、肉眼で見てはいけないとのことだったなと、私も空に向かって写真を撮ってみました(小さいですが左上に写っているのがそれだと思います)。ばたばたとしていて、今日はあえて見る予定もなかったのですが、思いがけず見られてやはり嬉しかったです。

2017年8月16日水曜日

Instagramのお知らせ



Instagramのお知らせをさせてください!こちらでは今のところ発表予定の曲の予告クリップや、まだ作品としては発表していない曲の断片などを載せています。これからさらに内容を充実していければと思っています。よろしければぜひこちらもご覧頂けましたら幸いです!

2017年8月11日金曜日

プレゼンテーション本番



昨日無事にSweethearts of Swingの本番が終了しました。屋外のステージでのプレゼンテーションだったため、雨用の予備日も準備されていましたが、幸いにも晴天に恵まれました。

会場はマンハッタンから電車で1時間程の距離にある、The Pocantico CenterというThe Rockefeller Brothers Fundによって管理・運営されている歴史的な施設内にあり、お城のような建物や美しい景色に囲まれてのパフォーマンスとなりました。

実際のリハーサル期間は三日間という限られた時間だったのですが、演出家、音楽監督、作者、舞台監督やスタッフ全員の的確な仕事を通して、曲やシーンが急速にまとまってゆき、また演奏家/役者同士の関係が深まるにつれてキャラクター間の関係性にも還元されてゆくのなどを見るのは本当に刺激的でした。

自分の仕事ぶりには「これはできた」と思う事と「今後の課題」と思う点の両方ありますが、現場に入る度に作品や一緒に仕事をさせてもらったスタッフや役者から学ぶ事が本当に多く、お土産をたくさんもらって帰ってきたような気分です。

これからまた、次の仕事や自分のプロジェクトに生かしていきたいと思います。

〈8/13追記〉 Sweethearts of Swing のfacebook page にプレゼンテーションのスライドショーがアップされたのでご紹介させて頂きます。

Photos by Jody Christopherson. Music by Kat Sherrell.

2017年8月7日月曜日

Sweethearts of Swing


台風5号の被害を受けられた方にお見舞い申し上げます。昨今は本当に異常気象が多いように感じ、被害の報を聞くたびにやるせない気持ちになります。

ニューヨークはどちらかというと過ごしやすく、まだ秋の気配ではありませんが、もはや夏の気配でもないような日が続いていて不思議な感じです。

ここ数週間は現在制作が進行中のミュージカル、Sweethearts of Swingのプレゼンテーションに音楽助手として呼んでもらってスタッフに入っており、準備やリハーサルの日々を過ごしています。

このミュージカルはアメリカにおける人種差別がもっともひどかった時代に実際に存在し活躍した、女性のみで構成されたビッグバンドをモデルにした物語です。当時は聴く音楽すらも人種によって隔てられていた中、(人種が)有色の女性ばかりで構成されていたバンドに、白人の女性がメンバーとして加わったことによってバンドに巻き起こる葛藤と、彼女たちが社会に投げかけた疑問とその影響を、壮大なビッグバンドの音楽を通して描きます。

このミュージカルには数年前の初期段階のプレゼンテーションの際にも音楽助手として関わらせてもらったのですが、数年の間に作品としてもプロダクションとしても格段に発展していて、再び関わらせてもらうことができて感慨深く、現場から学ばせてもらうことも多くありがたいです。

前回は5人のバンド+アクターというコンパクトなプレゼンテーションだったところ、今回はより作品の目指す規模に近づき、12人のミュージシャンとシンガーがステージ上で演奏し、演技も受け持ちます。今回は作品の抜粋となりますが、一線で活躍するミュージシャンたちがアンサンブルとなって発揮する演奏の迫力、そして実際のミュージシャンが演じるミュージシャン像の説得力は圧倒的です。

今回の本番、そして今後の発展もぜひ大成功してほしいと思う素晴らしいミュージカルです。明後日本番なので、またその様子などもご報告させていただけたらと思います。

2017年7月30日日曜日

鑑賞記録:夏のクロイスターズ美術館でのコンサート



メトロポリタン美術館の別館であるクロイスターズ美術館は、昨年から夏の間(May 26 – September 1)、金曜日の開館時間を7:30 p.m.まで延長しています。マンハッタンの北の端にあるこの美術館は中世の美術を展示しており、本館も含めた街中の大きな美術館に比べると展示の量は少ないですが、景色と建築と庭も含めたその静かで落ち着いた魅力に定期的に訪れる人も多い美術館です。

昨日はその延長された開館時間に時折実施されるコンサートに、いつもお世話になっているListen Closelyが地元で活躍する音楽家として招かれて演奏をするとのことだったので、聴きに行ってきました。プログラムはルネサンスの曲を中心に、地元で活躍する現代の作曲家の曲も取り上げていて、とても聴きごたえのある良いコンサートでした。お客さんの数も多く、熱心に聴き入っていてくれていたのが印象的でした。そして半屋外のコンサートとはいえ、回廊に響き渡る音響がとてもよかったのも驚きでした。

クロイスターズ美術館を訪れるのは、留学する直前にNYに旅行した時以来で、当時はどこに行くにもおっかなびっくりの中、マンハッタンの北の端にあるクロイスターズまでたどり着けたことがまず誇らしかった記憶があります。Listen Closelyの音楽家たちにはMannes音楽院での同級生が多いのですが、数年後にこうして「同級生」と呼べる音楽家たちの演奏会を聴きに戻ってこられたのだなと少し感慨深く思いました。しかし、それにもまして、こうして級友たちが音楽家としてどんどん社会に出ていっているのを目の当たりにすると、焦りにも似た刺激を受ける思いです。自分もがんばらねば!と思いました。

2017年7月28日金曜日

ピアノを教えていて思ったこと:できることとできないことの境界線

写真は投稿と関連がありませんが…、
なんだかきれいな夕暮れ時だなと思って見上げた瞬間を撮ったものです。

気がつけば7月も終わりに近づき、夏の前半が過ぎたことにはっとします。ニューヨークはここ数日はとても涼しい気温が続いていますが、日本の夏はいかがでしょうか。

今日は少し、ピアノを教える中で思ったことを書き留めておきたいと思います。数年前から徐々にピアノを教える機会が増え、現在は10人前後(夏休みで長期お休みの生徒さんや、増えるかも?な生徒さんも含めて)の生徒さんに教えさせてもらっています。

子どもの生徒さんは5歳前後のお子さんに一から教えさせてもらう機会が多く、一本指で鍵盤を弾くのがやっとというところから始めて、数年経って両手で弾けるところまでくるとやはり感激します。その過程で思うことですが、「子どもは成長の過程で大人を常に試しながら、やっていいことと悪いことの境界線を学んでいく」と聞いたことがありますが、教える側にも生徒さんに対してそういう側面があるなと感じます。その場合に見極めるのは変動する「できることとできないこと」の境界線ということになりますが、前回はできなかったことが今回はできるようになっているかもしれない、という意識をもって積極的に補助を外していくことを意識しておかないと、せっかくの成長を妨げてしまいかねないなと感じます。自力ではまだできない部分をシンプルに助けてあげたくなる気持ちはありますが、かといって毎回音名を書いてあげたり、毎回声かけをしながら歌ってリードしてあげたり、「こうすればできる」という方法をいつまでも続けていては指導にならないぞ、相手は常に成長し続けている存在なのだ、と肝に銘じる思いです。補助の手立ての引き出しを増やして、よりその時々に合った高さの階段をつけてあげられるようになりたいです。

月並みですが、生徒さんから学ぶことは多く、指導法の試行錯誤においてだけでなく自分自身の音楽への見方や向き合い方にも刺激をもらうことが多いです。全ての経験から学んだことを還元していけたらと思っています。

2017年7月12日水曜日

CDレビュー



最近お知らせばかりになってしまい恐縮ですが、2015年に出した初の作品集CD(EP)のレビューを書いてもらうことができましたのでお知らせさせて頂きます。

書いてくれたのは、2013年に卒業後初めてのリサイタルを開いた際にもレビューを書いてもらった、Lucid CultureというNYをベースとした音楽ブログです。

実は書いてもらったのは三月で、The Gray Wolfのコンサートの告知と合わせて掲載してもらったのですが、ちゃんと和訳をして…、と思っているうちにお知らせが遅くなってしまいました。

CD中の個別の曲の評に入る前に、冒頭に私の曲について短く評してくださっている部分を訳したものを載せさせて頂きます。

"Pianist/composer Ayumi Okada writes vivid, cinematic songs without words. Her music is full of stories, and humor, and unselfconscious depth. Much as her sense of melody is appealingly consonant, it would be a mistake to pigeonhole her as a neoromantic: she’s most at home in the borderlands with Debussy and Ravel. "

「作曲家・ピアニストである岡田あゆみは、鮮明で映画的な無言歌を書く。彼女の音楽は物語に溢れていて、そしてユーモアと気取らない深さがある。彼女のメロディーのセンスは魅力ある協和的なものではあるが、彼女を新ロマン主義的と分類するのは誤りであろう。彼女はドビュッシーとラベルの境界線上にいるのが最も居心地が良いようである。」

とても励みになり、書いてもらったことに応えられるよう、そしてまたレビューを書いてもらえるよう、頑張っていきたいと思っております。

2017年7月10日月曜日

The Grey Wolf: V. One Solitary Wail



九州の豪雨で被害を受けられた方々にお見舞い申し上げます。どうかこれ以上被害が拡大しませんように。

6月は一度も投稿せずに過ごしてしまいました。ここ最近は引越をしたり、進路についてあらためて考えるきっかけがあったりと慌ただしく日々を過ごしておりましたが、その全ての出来事から新たなモチベーションをもらったように感じているので、これから益々音楽活動に打ち込んで参りたいと思っています。

今日はThe Gray Wolfの別バージョンのビデオをご紹介させてください。Listen Closelyの公式ホームページに公開されている五楽章の初演映像です(現在Youtubeではunlistedになっていますが、近々publicにする予定とのことで掲載許可もとっています。)。

「お話」に対して作曲するという作品をどういう風に発表すれば良いのかまだ模索中で、その試行錯誤の一環として先日イラストと音源と合わせたビデオを作成したわけなのですが、この演奏の映像を観て、結局演奏者が演奏してくれている姿ほど曲を良く伝えてくれるものはないなと脱帽しました。

また、あらためて演奏の様子を観てみて、曲自体各楽器にお話の中のキャラクターを割り振って書いた(娘:ピアノ、青年:チェロ、母親:ビオラ、狼:ピアノ+バイオリンI, II)のと、今回は演奏者の並び方もそれに適した形でやってもらえたので、お客さんにお話の粗筋を知った上で演奏を観てもらうことができれば、たとえそれ以上の視覚的な情報がなくとも、お話をたどってもらう事がある程度可能なのではないかと、今後の作曲についても示唆を得る事ができました。

お楽しみ頂ければ幸いです。

2017年5月30日火曜日

"The Gray Wolf" Video


またまたすっかり間が空いてしまいましたが…、4月頃から準備していたピアノ五重奏曲のためのThe Gray WolfのビデオがようやくYoutubeに公開できましたので、お知らせさせて頂きます。


今回はよりお話に沿って音楽で物語るような曲を目指して書いたため、ビデオは演奏の映像ではなく、あえて実験的に、作曲の過程で使用していた絵コンテを膨らませたような鉛筆画を連ねた映像を制作致しました。(お話の粗筋については前々回の投稿をご参照頂ければと思います。)

絵に関しては素人にも関わらず(一応中学では美術部に入っていたのですが…)、あえて勉強する時間も取れずに気力と勢いで描き切ってしまったため、お見苦しい点も多々あるかと思いますが、このようなイメージで音楽を書いたのだということを表現してみたくて、今回はまずこのような形で発表させて頂きました。

どうかお楽しみ頂けましたら幸いです。また個人的にでも、ぜひご感想などお寄せ頂けましたら今後の参考と励みになりありがたいです。

2017年4月26日水曜日

弦楽四重奏曲第一番


公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団ウェブサイトより

先月もう一つ嬉しかったことに、「弦楽四重奏曲第一番」の日本初演がありました。京都市伏見区を活動の拠点とする墨染交響楽団の「オーケストラ名曲コンサート」のプレコンサートで取り上げてもらいました。

京都教育大学音楽科の同期であり、楽団の発足以来主要メンバーの一人として活躍している米田勇樹くんが提案してくれ、第一バイオリンとしてカルテッドをリードして演奏してくれました。

墨染交響楽団の演奏会は毎回たいへん盛会で、このコンサートの入場整理券も約一週間で配布終了してしまった為、こちらのブログではお知らせしそびれてしまったのですが。。日本での初演というだけでも嬉しいところ、今の音楽活動に至る原点ともなった大学時代を共に過ごした友人に演奏してもらえて感無量でした。

墨染交響楽団の次の演奏会は、第22回定期演奏会(2017年9月18日(月・祝)、文化パルク城陽 プラムホールにて、入場無料)、プログラムはチャイコフスキー 交響曲第5番、ブラームス ヴァイオリン協奏曲だそうです。お近くにお住いの方はぜひ!

2017年4月22日土曜日

The Gray Wolf Premiere


先月の作曲の活動の中で大きかったこととして、Piano Quintetの為の"The Gray Wolf"の初演がありました。

このごろ器楽曲の作曲においては「音楽だけでどこまで物語を語れるか」ということに興味があり、この曲はその試みを押し進めたものとなりました。

実際には、演奏会ではタイトルやプログラムノートの助けを借りて、お客さんにあらかじめ内容をある程度把握してもらった上で聴いてもらう形式をとっているのですが、それでも紙芝居を見る時のように、お客さん自身の想像力を使ってもらいながら、のめり込んで聴いてもらえる物語りを音楽で実現したい、というのが目標です。

初演は素晴らしく、最後の音が鳴り響いた時に「ああ、曲が無事に生まれた。」と感激しました。お客さんも、しばらくの余韻を経てから拍手を送ってくれて、とてもありがく、忘れられない素晴らしい夜となりました。

また音源が公開できる準備が整い次第あらためてご紹介させて頂きたいと思いますが、以下にプログラムノートを和訳したものを載せさせて頂きます。

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『狼娘の島』

この曲はジョージ・マクドナルドの短編小説『狼娘の島』(1871年)に着想を得て書かれました。小説は、若い狼娘を主人公とし、彼女がある青年と出会うことで浮き彫りになる自身の二面性に対する内面的な葛藤を描いています。

物語はシェトランド諸島の、ある嵐の夜を舞台に始まります。英国から来た若い学生が仲間とはぐれ、雨の中一人で荒れ地を彷徨っていました。嵐の中、彼は思いがけず若い娘と出会い、彼女の母親の住む小屋に避難させてもらうことになります。青年はその不思議で美しい女性に強く惹かれますが、同時に鮮やかな青い目で彼女が彼を見つめる時の、不気味で「貪欲な」眼差しには嫌悪感を覚えるのでした。

娘の母親と夕食を共にした後(彼女は何も食べません)、青年は夜の眠りにつきます。真夜中、彼は唐突に獰猛な獣に襲われ目を覚まします。彼は獣と格闘し、その首を強く摑まえましたが、逃げられました。

翌朝、青年は自分の手形が娘の首に痣として残っているのを目にし、衝撃を受けます。彼はついに、娘と彼を襲った獰猛な狼が同一の存在であったことを悟ります。

青年は逃げ出し、大きな灰色の狼が彼の後を追いました。しかし狼がまさに彼に追いついたその瞬間、彼女は何とか人間の自分に戻ることができました。青年は不意に彼の腕の中で泣いている娘に気がついたのでした。彼女は彼を逃してやりました。そして彼が荒れ地の向こうから振り返った時、崖の淵に手を固く握り締めて立っている娘の姿を目にしましたが、彼女はもう彼を追って来ようとはしませんでした。

岡田あゆみ

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2017年4月19日水曜日

桜に思うこと


とんとんと投稿していくつもりだったのですが、またまた間が空いてしまいました。。三月の活動報告をと思っていたのですが、今日は少しこの季節に思ったことを書かせていただきます。


写真は先週のものですが「もしかして桜なのかな?」と思う街路樹が満開でした。毎年「もしかして?」と思いながら調べもせずに季節が過ぎてしまうのですが。。街では真っ白な花びらのものも含めて、桜っぽい街路樹をところどころで見かけます。

一気に開花して、一週間程で散ってしまうこの可憐なお花が咲き乱れる日本の春が懐かしいですが、私はどこか少し感傷的になり過ぎてしまうようで、個人的にはこのぐらいほのかに桜の存在感を感じる春も好きになりました。

ニューヨークが住みやすいと感じることの一つには「自分で選べる」ということがあるように思います。様々な背景の人が集まってきている場所なので、皆それぞれの祝日をお祝いし、それぞれのやり方で生活しているため、自分もまた人と比べずに生きやすいように思います。ここでは桜を見るか見ないかすらも選べます。

新しく住む場所というのは結局何年住んでも慣れない部分はあり続けるように思いますが、それがあるからこそそれぞれの場所の良さや特質に気付けるようにも感じて、その感覚は大切にしていきたいなと思いました。

2017年3月30日木曜日

幻想曲「信濃の国」


またまた間が空いてしまいました。

3月は前回の投稿でお知らせさせて頂いた"The Gray Wolf"の初演も含めて、様々な作曲や作品発表の機会に恵まれとても充実していたのですが、ようやく一連のプロジェクトが一段落するという直前にまさかの風邪をひいてしまい、数日前にようやく復活してきました。季節の変わり目、皆様もどうぞご自愛くださいませ。。

これから少しずつ、3月の活動の成果をこちらでご報告させていただきたいと思います。今日はまず最新の音源をご紹介させてください。

幻想曲「信濃の国」
原曲: 北村季晴作曲「信濃の国」(長野県県歌)
クラリネット:伊藤優美 ピアノ:斎藤誠二



長野県出身のクラリネット奏者の伊藤優美さんから委嘱を頂き、長野県の県歌である「信濃の国」をもとに、クラリネットとピアノの為の幻想曲を書かせて頂きました。

長野県民の皆様に大変愛されている「信濃の国」に対して曲を書かせて頂くのは大きなプレッシャーでもありましたが、伊藤優美さんの美しいクラリネットの音色を想像しながら楽しく書かせて頂くことができました。

この音源を初めて聴かせて頂いた時には、想像していた以上の伊藤さんの優雅なフレージングにため息が出、斎藤誠二さんの的確かつ表現豊かなピアノにも惚れ惚れとしました。お二人で曲をメリハリのある立体的な演奏に仕上げてくださっていて、とてもありがたく思いました。

ウェブサイトへの公開の許可を頂きましたので、こちらでもご紹介させて頂きます。お楽しみ頂けたら幸いです。

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この曲は明日土曜日に長野市芸術館 リサイタルホールで行われる「伊藤優美 & 粟生田直樹 クラリネットデュオコンサート」でも演奏していただけるそうです。多彩なプログラムを準備されているそうなので、素晴らしいコンサートになること間違いなしです!お近くにお住いの方はぜひ。

2017年3月7日火曜日

The Gray Wolf


気がつけば2月は一度も投稿せずに終わってしまいました。。。先月は、ありがたいことながら作曲関連の締め切りが複数重なり、本当にあっという間に過ぎてしまいました。

作曲の内容は、ミュージカルの歌、クラシック的な器楽の作曲、クラシックの室内楽の作曲、と異なるタイプのものだったので、時間に追われると同時に頭を切り替えるのに苦労もありましたが、追い詰められたからこそ登れた山もあったように思います。

今週はそのうちの一つであるクラシックの室内楽、以前にも少しご紹介させていただいたPiano Quintetの初演があります。下にポスターを貼らせて頂きます。



曲名は"The Gray Wolf"で、George MacDonaldの短編小説 "The Gray Wolf"(邦題は「狼娘の島」)に着想を得た5楽章構成の標題音楽です。George MacDonaldのお話に音楽を書くのは二度目なのですが(一作目は"The Light Princess"に着想を得た"The Light Princess Suite"でした)、前回は空想的なお話だったのに対して、今回はミステリアスで暗い世界観の、かつ本当にあった出来事のように語られる物語なので、できるだけすべてのエピソードを割愛せずに音楽で語るべく取り組みました。

また今回はListen Closely Inwoodという、お世話になっているコンサートシリーズからの委嘱という形で作曲させてもらったので、作品を書くプレッシャーをいつも以上に感じていたのですが、先日初めてリハーサルに参加し、演奏してもらうのを聴いて少しほっとしました。素晴らしい演奏者は引き出しも多く懐も深い、ということに改めて感じ入りました。

お話の内容や、作曲の際に考えたことなどについても、また追い追いこちらで語らせていただけたらと思っています。

2017年1月22日日曜日

政権が変わって思うことなど


少し間が空いてしまいました。冬型の気圧配置が強まっているようですが、日本の皆様におかれましてはどうぞ寒さと雪にお気をつけください。

アメリカでは、ついにトランプ政権になって数日が経ちました。昨日はワシントンを中心に全米でデモがあり、NYでもたくさんの人が参加したようです。私も思うところはありながら結局街中には出ず、デモの様子もSNSで見守るに留まりました。

ビザをもらってこの国に滞在し、活動し生活しているけれども、「我々アメリカ人は!」という演説の一節を聞く度に「そこに自分は含まれないのだよな」と思います。そのことに対してどちらかの強い思いがあるという訳でもないのですが、客観的な事実としてあらためてそう思います。

というのも、アメリカには住んでいても国民ではないので当事者でないような、そして日本に対しては母国であっても住んでいないので当事者でないような気がしてしまって、どちらも気にかかるのに今一歩踏み込む勇気を持てず、やきもきばかりしているように思います。

そしてニュースを見ると、アメリカ以外の国でも連携したデモがあったと知り、自分が自意識過剰になっているうちに、国が違っても理念に賛同して運動した人がいたのだと知って、さらに凹んだりしておりました。。。

NYに来て以来ずっとオバマ政権だったので、これからどう社会が変わっていくのか、どのような影響を受けることになるのか。溢れる情報に振り回されずに、正しく必要な情報を取り入れるようにならねばと思っています。

ところで、次の作曲のプロジェクトとして(もちろん本業の方も頑張ります!)現在はPiano Quintetの作曲に取り組んでいます。今回も物語に主題を得ており、今はまだお話を分析したところまでですが、初めてのPiano Quintetの編成と、そのお話の組み合わせにワクワクしております。またその進捗や詳細についてもご紹介させていただきたいと思います。

今日は愚痴になってしまい失礼しました。。お付き合い頂きありがとうございました。

2017年1月5日木曜日

新年のご挨拶



明けましておめでとうございます。皆様が穏やかな良い新年を迎えられたことを願っております。

NYの年越しの様子は割とさっぱりとしていて、多くのお店も大晦日まで普段通りに開いており、私のピアノレッスンの仕事始めも3日からでした。それでも年末ゆっくりでき、新年を友人とお祝いできて、リフレッシュすることができました。

今年の抱負は、「勉強して知識を蓄えること」と「こまめに作品を発表すること」です。その成果をこのブログでもご報告できるよう、こちらもこまめな更新を目指して参りたいと思いますので、お時間ある時に覗いて頂けましたら幸いです。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。