2019年1月31日木曜日

大寒波と1月の観劇記録


北米を襲っている大寒波の影響で、ニューヨークも昨日から厳しい寒さ(現在の外気は-9℃、体感温度は-17℃)が続いています。昨日の午前中はまだそうでもなかったので、そこそこの防寒対策(帽子なし、普通の靴)で出かけたところ、夕方からどんどん気温が下がってしまって帰りが大変でした…。写真は友達と食事をして外に出たところ、あまりにも吹雪いていたので思わず撮り合ったものです(吹雪は一瞬のことで、直後に雪はやみました)。今回の寒波はせめて雪が伴っていないのでまだ助かっています。


今月は2つ舞台を観に行くことができました。どちらも素晴らしかったのですが、それぞれに対照的な観劇体験だったので少し書いておきたいと思います。


・ANASTASIA The New Broadway Musical『アナスタシア』
1997年のアニメ映画『アナスタシア』を舞台化したミュージカルです(テレビジャパンのウェブサイトに作品の解説とストーリーがまとめられています)。歴史上の悲劇的な出来事の後に生まれた伝説に着想を得たストーリーですが、「こうであったらいい」というハッピーエンドを鮮やかに描き出していて「ミュージカルを観た」という満足感がありました。物語に対して好意的に思ったのは、主人公のアナスタシアが、おとぎ話によくあるようなプリンスに守られる対象としてのプリンセス像ではなく、自分で決断し、行動することで道を切り開いて行く自立した女性、一人の人間としてしっかりと魅力的に描かれていた点です。メロディックで多彩、かつ的確な音楽、豪華な衣装、そしてステージの背景のLEDスクリーンに映し出される壮観なプロジェクションによって、当時のロシアとフランスの街に実際に自分もいるかのような臨場感で物語を追う事ができたのも楽しい経験でした。

・Gatz 『ギャッツ』
こちらはF・スコット・フィッツジェラルドの代表作『華麗なるギャツビー』を舞台化したストレート・プレイです(こちらのブログHedgehog Noteに、2012年の公演に対する詳しいReviewが書かれています)。このショーの一番特徴的なところは、小説を一言一句変えずに全て朗読するところにあり、上演時間は休憩を含めて8時間に及びます。会場に着くと、舞台上には古びたオフィスの一室がセットされており、一体どのような公演になるのだろうと見当もつきませんでした。開演すると、そこで長年働いていると思しき人が出勤してきて、いつものように仕事に取りかかろうとするのですが、電源を入れてもコンピューターが立ち上がらない。起動を待つ間に手持ち無沙汰となり、机にあった小説を何気なく手に取って音読を始める、というところから二つの世界が交錯し始め、『華麗なるギャッツビー』の世界が紐解かれて行きます。8時間という観劇時間も練り上げられた演出と絶妙なペーシングで長いとは感じませんでした(観劇は一日がかりですが)。終始古びたオフィスの風景を観ながらにして、絶妙な役者の演技、演出、そして照明によって、その奥に確かにギャッツビーの生きる世界を観た、という感覚はとても心地良かったです。

二つの公演を振り返って、ミュージカルとストレート・プレイの特色をとても如実に感じられる公演だったなと思いました。ミュージカルは座って観ているだけで全ての情報がわかりやすく伝えられて感覚的に楽しめる、まるでジェットコースターのような舞台芸術で、一方ストレート・プレイは観客の想像力をかき立てることで個々人の中に固有の観劇体験が構築される、まるで地図をもらって宝探しをするようなような舞台芸術と例えられるでしょうか。どちらも良い、やはり舞台が好きだなと思いました。