2023年7月15日土曜日

観劇記録:Camelot


 先日、リンカーンセンターのVivian Beaumont Theaterで開催中のアーサー王伝説を基にしたミュージカル、キャメロット(Camelot)のリバイバルを観劇してきました。何も知らずに観に行ったのですが(観劇はあえてあらすじ等何も調べずに観に行きたい派です)、観た後とても感じ入るところがありました。

 原作はMy Fair Ladyも手がけたFrederick Loewe(音楽)とAlan Jay Lerner(歌詞、脚本)による1960年の作品ですが、このプロダクションではA Few Good Menでも知られるAaron Sorkinが新たに脚本を書き下ろし、音楽はそのままで、作品が再構築されています。

 大きな変更としては魔法の要素が排除されていることで、理想の政治を実現しようとする過程で葛藤する人間同志のドラマに焦点が当てられています。

 特に、アーサーがエクスカリバーを引き抜くことができたのは「選ばれし者だったからではなく、それまでに何千人もの人がトライしたことで抜けやすくなっていたからだ」とグウィネビアが説くシーンがあり、そのセリフ自体は軽妙な会話のやり取りから生まれ客席から笑いも起こるのですが、作品の最後のメッセージともつながっていて新鮮でした。

 いくつか大手メディアの劇評も読んでみたところ、アーサー、グウィネビア、ランスロットの三角関係がうまく創出できていない、という評もありましたが、個人的には、「思いがけず王になった責任感の強い青年」、「政略結婚で妻となった王女」、「最も信頼される騎士」、という3人の中で、愛情にためらいがあったり、自分の気持ちと立場上あるべき振る舞いの中で揺れ動いていたり、不安が故に裏切ってしまったりと、誰かを悪者にすることなく関係性が崩れてしまう瞬間が描かれていて納得感がありました。

 また、こちらも劇評の中でも指摘されていたところですが、現代的な価値観が積極的に反映された脚本と、物語の中で起こる出来事と歌詞の中で語られる内容がどうしてもそぐわない部分もあり、やはりリバイバルというのは難しいと感じましたが、新しい脚本が目指した方向性には一貫性があり、共感できる部分が大きかったです。

 4月13日に開幕したこのプロダクションも、来週末千秋楽が予定されています。どの作品を見ても思うことですが、観た側が、これが一回限りの公演だと言われても納得してしまうような熱意と精度で、毎公演キャストとオーケストラが演奏してくれていることに頭が下がり、ありがたいことだと思います。千秋楽までどうぞ引き続き無事に盛況にと願います。