2015年6月9日火曜日

第七回:BMIワークショップについて「コラボレーション」

 
 今回はBMIワークショップについての最終回として、「コラボレーション」について書きたいと思います。  

 これまでに、BMIワークショップの概要(第五回)とプログラムの概要(第六回)を見てくる中で、詳しく触れないまま「コラボレーション」という言葉を用いてきてしまったのですが、今回は私自身の経験も雑えながら少し掘り下げて書いてみたいと思います。

 まず、ソング・ライティングにおける「コラボレーション」の概要なのですが、「合作」というその単語の意味通り、作詞家と作曲家が共同で曲を書くこと、及びその過程を指します。ただその際に、どのような順番で、どのような割合で合作をするのかは、ペアによって様々に異なります。

 例えば作曲家リチャード・ロジャースは、作詞家ロレンツ・ハートとペアを組んでいた時(『パル・ジョーイ』、『シラキーズから来た男たち』等)はメロディーを先に書き上げて作詞を待ち、また作詞家オスカー・ハマースタイン2世と組んでいた時(『オクラホマ!』、『王様と私』等)には、先に書き上げられた歌詞に対して作曲したそうです[1]

 ただ、BMIワークショップでは、歌詞と音楽のどちらかを単独で先に書き上げてしまうのではなく、曲のアイディアを発想する段階からやり取りをして、二人でほぼ同時進行で書き上げて行く事を推奨されているので、私もそのように心がけてコラボレーションに取り組んできました。

 具体的には、まずコラボレーターと曲のアイディアを話し合って、”Hook"(フック)[2]を決めます。そして更に曲の構成を話し合った後、作詞家か作曲家のどちらかが先行して1セクション、もしくは1コーラスといったある程度まとまった量の素材を書いてコラボレーターに渡します。もらった方はそれに対してフィードバックを返し、調整のやり取りを経て方向性が定まったら、自分のパートを書き加えて返します。そのように、互いに触発されて書き進めながら、同時に調整を繰り返し、全体像を立ち上げていきます。

 その際、お互い作詞と作曲で、相手の分野には極力踏み入らないように気をつけるのですが、どうしても曲の方向性に対してしっくり来ないと思う場合には伝え合い、また自分の分野について客観的な意見を求めて相談することもあるので、最終的に出来上がった曲については、歌詞・音楽共に少なからず両方のアイディアが反映されていて、まさに合作という気がします。

 ちなみにコラボレーションの中で作詞家と作曲家のどちらが先行して書き始めるのかについては、音楽から先に書いた方が魅力的なメロディーが生まれやすいとされているので、私のペアでも基本的に毎曲そのように取り組んでいます。

 そうすることによって、英語が母国語でない私にとっては、言葉のアクセントや文章のイントネーションに沿わないメロディーをつけてしまう心配がない、という点でもありがたいのですが、同時に言葉の手がかりなしにメロディーを書き始めるのは、慣れるまで少し心もとなくもありました。ただ、メロディーにコラボレーターがつけてくれた歌詞を入れて歌ってみる瞬間は、歌に命が吹き込まれたかのようで、コラボレーションの中でも最もわくわくとする瞬間です。
 
 BMIワークショップでの二年間のコラボレーションを振り返ってみると、一年目はともかく様々な相手と組むことで、コラボレーションというプロセスを学びながら、一番心地よいと感じる取り組み方を探す過程だったように思います。二年目は一人のコラボレーターとじっくりと作品に向き合うことで、また非常に多くの事を学んだと感じています。

 以上、三回にわたってこちらも急ぎ足でBMIワークショップについてと、そこでの活動について書かせて頂きました。次回はあとがきにて、締めくくりとさせて頂きたいと思います。

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[1] http://performingsongwriter.com/richard-rodgers/より
[2] Hook(フック)については第四回「歌の作り」をご参照ください。