2015年6月8日月曜日

第六回:BMIワークショップについて「プログラムの概要」


 今回はBMIワークショップのプログラムの概要について書かせて頂きます。

 クラスは一学年40人弱で、人数の内訳はLyricist(リリシスト:作詞家)とComposer(コンポーザー:作曲家)がだいたい半数ずつです(中には一人で両方を兼ねている人もいます。)。クラスメートのバックグラウンドは様々ですが、作詞家には比較的俳優出身の人が多く、作曲家はクラシック、ポップス、ジャズなど様々なジャンル出身の人がいます。

 プログラムの一年目では、年間を通してモデレーターから次々とソング・ライティングの課題が出され、その度に作詞家と作曲家のペアも発表されて、毎回違うコラボレーター[1] と課題に取り組みます。課題は、指定された既存の物語/キャラクター/シーンに、指定された曲種の曲を書くといったものです(例:「映画『欲望という名の電車』の主人公のブランチに、ストーリーの前半のシーンで、キャラクター・エスタブリッシュメント・ソング[2] を書く」)。課題と共にコラボレーターも目まぐるしく変わっていくので、お互いを通してコラボレーションのやり方を学んでいく感じでした。  

 二年目は、クラスメートの間で自分たちでペア[3] を組み、題材(既存の物語)を選び、一年間かけてミュージカルを書いていきます。クラスでプレゼンテーションするのは第一幕の曲のみ、かつオープニングナンバーを除くという指定がありますが、それ以外はペアで自由に書き進めることが出来て、段々クラスが、基礎を学ぶ場から、作品を書き進めるために批評をもらう場へと移行していきます。  

 三年目は、二年目以降に進んだ全てのライターが所属するのですが、ここはまさに各自が独自のプロジェクトを抱えて作品を書き進めている中、曲を試す場そのものであり、また定期的にある"Master class"(マスタークラス:公開レッスン)などで、第一線で活躍する講師の指導が受けられる機会も増します。  

 クラスにおける具体的な活動(一年目〜三年目まで共通)は、毎回5〜6組のペアによる曲のプレゼンテーションと、そしてそのそれぞれに対して行われる合評会です。合評会では、プレゼンテーションの際に観客側にいたクラスメートが、曲に対して感じた事(どこが良いと思い、どこがうまくいっていないと感じたか、または提案等)を次々とフィードバックしていき、最後にモデレーターがまとめのコメントをします。

 この合評会という活動によって、プレゼンテーションする側は、具体的に曲の書き直しの為のアイディアをもらえるばかりでなく、作品を通してソング・ライティングのノウハウを学べると同時に、その活動自体が客観的なフィードバックを冷静に受け止める練習になっています。そしてフィードバックを返す側にとっても、作品に対する批評眼を養う訓練になっていると思います。

 これらはマネス大の作曲科で勉強していた時にはなかった経験だったので、始めは批評を受ける事が怖かったのですが、クラスを重ねるごとに皆それなりに失敗する(良いと思って試したアイディアがうまくいかなかった等)ということと、むしろそれがクラス全体にとっての学びの機会になるということがわかり、段々恐れずにチャレンジできるようになっていきました。

 ちなみにクラスでのプレゼンテーションは、教室にあるピアノを使って、基本的には作詞家・作曲家自らが演奏することで行います。沢山のキャラクターが歌う曲などはクラスメートに手伝ってもらったり、また二年目以降は外部から歌手を連れて来てもいいことになっていますが、ぎりぎりまで書いていて人に演奏を頼むのが間に合わない場合もあり、その際は作詞家がキャラクターの名前を書いたカードを持って1人で何役もこなしたり、作曲家もピアノを弾きながら歌ったりして、なんとかプレゼンテーションを成立させます。

 また、クラスにおける配布物はレクチャーの際の資料やスケジュール以外はほとんどありません。課題は口頭で発表され、それぞれが映像や文献など資料などに当たって取り組み、またプレゼンテーションの際にも楽譜は配布せず、聴きながら分析をしてフィードバックを返します。はじめは何か心もとない気がしたのですが、慣れてくるとクラスに集まった「人」こそがお互いにとって教科書であり教師なのだなあと感じ、これほど実践的に学べる形式はないのではとすら思いました。

 今回は、BMIワークショップのプログラムの概要についてまとめさせて頂きました。次回はBMIワークショップについての最終回として、「コラボレーション」について書きたいと思います。

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[1] ペアを組んでいる作詞家なり作曲家の事は、"Collaborator"(コラボレーター)と呼んだり、"Writing Partner"(ライティング・パートナー)と呼んだり様々なのですが、今回は「コラボレーター」で統一させて頂きます。

[2] キャラクター・エスタブリッシュメント・ソングとは、そのキャラクターの人柄、置かれている状況、人生観等の基本的な人物設定を凝縮した歌です。主要なキャラクターには、一幕の前半にこの曲を歌う機会が与えられます。第三回「サブテクスト」の時に例に挙げたシカゴの”All I Care About”も、曲種としてはこのカテゴリに当たります。

[3] 作詞家と作曲家のペアのことは"Writing Team”(ライティング・チーム)と呼ぶことが多いのですが、便宜上今回は「ペア」で統一させて頂きます。