2015年12月2日水曜日

英語について思うこと:笑いの方向性


笑いの方向性については、日本とアメリカでは、まるで別の競技かと思うほど違うように感じます。

まず、私の感覚での日本の笑いとは、ボケとツッコミを基本とする、「バレーボール」のようなものです。トスが上がって(ボケ)、それをアタックする(ツッコミ)ことで点が決まり(ウケ)ます。全員が全員ボケて突っ込むわけではなく、ある程度ボケが得意な人、ツッコミが得意な人がいて、その人たちが、会話の機微を捉えてボケては、それを突っ込むことで、答え合わせのように皆にその面白さが共有されるイメージです。

一方、アメリカの笑いは、一対一の勝負の、「野球」のようなイメージです。ボケにあたるのはSarcasm(皮肉)だと思うのですが、これに対しては突っ込むことはなく、あえて流すか、乗っかってさらにボケるかだそうです。バッターボックスに立って、投げられるボールを見送るか、打ち返すか、そういったイメージです。

ちなみに、Sarcasmとは、事実とあえて反対のことを言ってその意味を強調する、といった感じで、例えばすごく退屈そうなイベントに参加しなくてはならない時に、そのうんざり感を表現するために「あー楽しみ」と言ったりする感じです。

会話の中では、相手が明らかにその時思っていそうなことと逆の表現を使っていると気づいた場合には、それがSarcasmである可能性が高く、したがってそれに普通に答えてはいけないわけなのです。ボケているわけですから、突っ込まねばと思うのですが、アメリカにはツッコミはないので、ボケを分かったという体で流すか、重ねてうまくボケなければなりません。しかもそれが普通の会話の中にするっとすべりこまされるので、非常に難しいです。

先日のCabaret showの遠征中には、Sarcasm好きのActorたちとの会話の中で私はなかなか大混乱で、ボケられているのに普通に答えてしまったり、ボケられていないのにボケ返してしまったり、なかなか散々でした。。イメージとしては、キャッチボール(普通の会話)をしていたと思ったら、ふっと急に難しい球を投げられて、「なんでこんな受けにくいボールを・・・。あ、これはボケか!」と思ったら急いでバットに持ち替えて打ち返さなければいけない、という感じです。

英語圏で6年も暮らして、だんだん「キャッチボールはできるようになってきたぞ」と思っていたところ、日常会話の中ではそうやってストライクやファールを連発してしまうという状況に若干凹みましたが、よくよくActorたちと話してみると、アメリカでも子供がSarcasmを理解しはじめるようになるのは8歳〜12歳頃なのだそうです。そうか、まだ2歳足りなかったのか、と妙にホッとしました。(注:実際には年齢に関わらずSarcasmの得意不得意には個人差があるそうです)

まとめますと、笑いの方向性の大きな違いとしては、日本の場合は「ボケによって生じたズレを、ツッコミによって元に戻す時に笑いが生じる」のに対して、アメリカの場合は「ボケによって生じたズレを、さらにボケて大きくズラすことに面白みを感じる」という違いがあるように思います。あるいは、ボケることによって突っ込んでいるとも言えるかもしれませんが、いずれにせよ「なんでやねん!」と直接的に突っ込む感じはアメリカ的ではないようです。

次回は、その直接的でない表現の傾向について、さらに詳しく書いてみたいと思います。