2018年8月9日木曜日

In the Shade of an Acacia Treeのインスピレーション


先日Pianoバージョンのビデオをご紹介させて頂いたIn the Shade of an Acacia Treeについて、今日はあらためて少し詳しく書かせて頂きたいと思います。

この曲について、これまでの投稿でも「お天気の良い午後に心地の良い木陰で、家族や親しい友人の為にゆったりとした気分で演奏してもらえたら」「近年進路のことで疲弊していた時期に、一時休める木陰のような存在の曲が欲しいと思って書いた曲」とご紹介させて頂いたのですが、実は具体的にそのインスピレーションを頂いた存在がありました。


アラブ首長国連邦(UAE)の砂漠で、夫さんと約200匹の動物たちと暮らしておられる美奈子アルケトビさんです。「はなもも(@hanamomoact)」さん名義のツイッターとブログ「はなももの別館」で、砂漠で動物達と共に生きる暮らしの様子を日々発信しておられます。美しい砂漠の景色の中で生きる動物達の姿をとらえた写真、軽やかでいて深い思慮に溢れる文章、そして多くの命と正面から向かい合うその生き方に感銘を受けた人は数知れず、2014年と2017年に出版された写真集『砂漠のわが家』『Life in the Desert 砂漠に棲む』はいずれも大きな反響を呼び、現在に至るまで何度も重版されています。

私も最初にツイッターではなももさんの事を知り、その後NYの紀伊國屋書店で『砂漠のわが家』を見つけて喜んで購入し、昨年発売の『Life in the Desert 砂漠に棲む』は発売直後に日本の母から送ってもらって、以来どちらの写真集も折りに触れては読み返す愛読書となりました。



In the Shade of an Acacia Treeを書いた2016年は、私にとって進路に関する一つの大きな決断を前にして葛藤していた時期と重なりました。これからどのような曲を書いて、どのような作曲家として生きて行きたいのか。一つの機会を前にして、限られた時間の中で考え抜いて判断しなければならない状況に途方に暮れていました。

そんな時にツイッターではなももさんの投稿を見ては、その美しい景色に慰められると同時に、自分以外の沢山の命に対して、常に決断を迫られながらまっすぐに向き合って生活しておられるという、その事実に圧倒される思いでした(私は自分の進路一つでこんなに大騒ぎしてしまっているのに…)。そしてどんな状況であっても穏やかな瞬間を見出して大切に生活しておられることに大きな感銘を受けました。中でも、木漏れ日のご自宅のお庭で、ウサギのペティさんや沢山のネコたち、ガゼルのみなさんとくつろいでおられる時の光景が心に残りました。

そして「そのような瞬間を音楽に書きとめられはしないか」「このような束の間の穏やかな時間に、家族や親しい友人の為に奏でるような、演奏者自身が心の底から演奏できるような音楽を書きたい」と思うようになり、弦楽器の為のソロ曲を書くことにしました。そうして、はなももさんのお庭の景色を思い描きながらIn the Shade of an Acacia Treeを書く過程で、私自身心の中に拠り所を見つけられたように感じ、救われる思いがしました。

そのようにして大変思い入れ深い曲となったので、いつか何らかの形でお礼をお伝えすることができたらと願ってはいたものの、大変一方的な経緯のため連絡を取らせて頂く事はご迷惑になるのではと躊躇していました。しかしその後アメリカで楽譜が出版され、自主制作ながら演奏のビデオもYoutubeで公開できたので、ついにファンレターのような気持ちで出版社を通じてご連絡させて頂いたところ、なんとビデオをご覧くことができ、その上温かい感想を添えたお返事まで頂けて、その丁寧なご対応とお人柄に感激しました。更にその後ご自身のツイッターでも曲の事をご紹介くださり、多くの方にシェアして頂くことができて感無量でした。

感激のあまり無理を承知で、ぜひ作曲へのインスピレーションを頂いた経緯をこちらのブログでもご紹介させて頂けないかとお願いしたところ、ご快諾頂ましたので、この度ありがたく書かせて頂きました。思いが溢れて長めの投稿となってしまいましたが…、お読みくださりありがとうございました!

『砂漠のわが家』も『Life in the Desert 砂漠に棲む』も、いずれも何度読んでも新鮮な驚きと、命が続いていくということへの静かな感動を心に広げてくれる、素晴らしい写真集です。まだご覧になっていない方は、ぜひお手に取ってみて下さい。